第1909話 全ての因縁の決着(3)
「まさか、こんなにも自分が死にたいと思う日が来るとは・・・・・・ははっ」
不死ゆえの苦しみ。その一端を知ったフェルフィズはただ笑う。このまま地上に落ちて死にたいと切に願いながら、急速に過ぎゆく世界を見つめていると、途端に何かに腕を掴まれた。
「っ・・・・・・」
フェルフィズが自分を掴んだ者に顔を向ける。すると、そこには闇夜に紛れるが如く黒を纏った金眼の男がいた。その男、スプリガンこと帰城影人はフェルフィズに冷たい目を向ける。
「・・・・・・悪あがきもこれで終わりだ。お前の負けだ。諦めろ、フェルフィズ」
「・・・・・・ええ、どうやらそのようだ」
影人を見たフェルフィズは全てを諦めた笑みを浮かべた。
「私の負けですよ、影人くん」
そして、フェルフィズは自身の敗北を宣言した。
「いやー・・・・・・いきなり建物が崩れた時は焦ったよね。普通に死ぬかと思ったよ・・・・・・」
完全に崩壊した忌神の神殿の残骸を見つめながら、そう呟いたのは暁理だった。影人が創造した怪鳥のおかげで、今はこうして無傷で地上に立っていられるが、あのまま落下していれば今頃暁理は確実に死んでいただろう。
「だよな。でも、バンジージャンプみたいでちょっと楽しくなかったか?」
暁理の隣にいた壮司がいつものへらりとした顔で暁理に語りかける。だが、暁理はドン引きしたような顔で壮司を見た。
「は? かかし、きみ正気? 紐なしバンジーはただの死へのジェットコースターだよ。やっぱり、君も影人と同じくアレだよね・・・・・・」
「あっれー・・・・・・? いや、冗談冗談だって! というか、スプリガンと一緒にはしてくれるなよ。俺はあそこまでぶっ飛んでねえよ!」
壮司は必死に弁明したが、暁理は弁明を無視し、変わらず引いたような顔で壮司を見つめていた。
「ふん・・・・・・最後の最後まで往生際の悪い奴だ」
「全くね。でも、所詮は駄々よ。惨めで哀れなね」
レイゼロールとシェルディアも瓦礫と化した忌神の神殿を見つめながら、そんな言葉を交わす。そして、2人は自分たちがそう評価した者がいる方に――フェルフィズがいる方に顔を向けた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
フェルフィズは無言で項垂れていた。影人もそんなフェルフィズを無言で見下ろす。
「・・・・・・もう少しすれば、お前を神界に連れて行く迎えがくる。それまでは大人しくしてろよ。次なにかすれば半殺しにするからな」
「・・・・・・分かっていますよ」
影人が釘を刺す言葉を述べると、フェルフィズは項垂れたまま小さな声を漏らした。フェルフィズに先ほどまでの穏やかさや、それ以前の狂気はなかった。まるで抜け殻になったかのようだ。
「・・・・・・帰城影人」
影人が変わらずフェルフィズに注意の視線を向けていると、自分の名を呼ぶ声が聞こえてきた。影人が声のした方に顔を向ける。すると、そこにはイズがいた。




