第1906話 真なる罰(5)
「うるせえ。お前は黙ってろ」
影人はフェルフィズを一瞥すると、レクナルに顔を向けた。
「・・・・・・確かにその危険性が絶対にないとは言えない。世の中に絶対はないからな」
「なら・・・・・・」
「責任は取れるか。あんたはそう聞いたな、レクナルさん。ああ、その時は俺が責任を取る。もし、こいつが自由になってまた世界に災厄を振り撒く時は、何がなんでも、例え死んでても蘇ってこいつを止める。さっき、世の中に絶対はないって言ったが、これだけは絶対だ」
影人は正面からレクナルにそう答えた。影人の答えは具体性もなく論理的でもない。だが、その言葉が本気であると魂にまで訴えかけてくるものだった。
「っ・・・・・・」
影人の気迫に悠久の時を生きてきたレクナルは一瞬気圧された。明らかに自分の何千分の一ほどしか生きていないだろうにこの気迫は何だ。いったいどのような生を歩めば、その若さでこれだけの気迫を放つ事が出来るのか。レクナルは帰城影人という人間の、おそらくは熾烈極まりない生の一端を垣間見た気がした。
「・・・・・・分かった。そこまで言うのならば、私も言葉の矛を収めよう。彼の処遇について、私はもう何も言わない」
「・・・・・・同じくだ」
『私もです』
「・・・・・・その言葉、忘れるなよ」
「それが君の正義か・・・・・・ならば、私は君の正義を尊重しよう」
影人の答えを聞き、レクナル、ハバラナス、ヘシュナ、ハサン、アイティレも反対意見を取り下げた。影人は彼・彼女たちに対して、「・・・・・・感謝するぜ」と短く礼の言葉を述べた。
「ぐぅっ・・・・・・! まだだ、まだ! イズ! 後生だ! あなたの本体で私を――!」
フェルフィズはイズに向かって何かを叫ぼうとした。だが、フェルフィズが言葉を紡ぎ切る前に、影人はフェルフィズを殴りつけた。
「ぶっ!?」
「・・・・・・バカが。てめえ、いま自分が何を言おうとしてたか分かってるのか? お前がどんなに最低最悪のクソ野郎でも、それだけは言っちゃならないはずだ。お前もそれは分かってるだろ・・・・・・!」
影人に殴られたフェルフィズが地面に横たわる。影人は冷たさの中に激情が込もった声で、フェルフィズにそう言った。フェルフィズはハッとした顔になったが、当のイズは「っ・・・・・・?」と首を傾げていた。
「・・・・・・どれだけみっともなく嫌がったところでな、お前の未来はもう決まってるんだよ。いい加減に・・・・・・諦めろ」
影人がフェルフィズにそう言葉を投げかける。フェルフィズは横たわりながらも影人を睨みつけた。
「まだ・・・・・・まだだ・・・・・・! 使うつもりはなかったが、こうなれば・・・・・・!」
フェルフィズは自身の体内でとある魔術を起動させた。それは正真正銘の、フェルフィズの最後の抵抗手段だった。
すると、次の瞬間、ゴゴゴゴと再び地面が揺れ始め――
ピシリと周囲の壁や地面に亀裂が奔った。亀裂はどんどんと増えていき――
「「「「「っ!?」」」」」
皆が驚いた顔を浮かべた時にはもう遅く、忌神の神殿は崩壊を始めた。




