第1905話 真なる罰(4)
「っ、帰城ぉ・・・・・・影人ぉッ・・・・・・!」
影人の宣言を受けたフェルフィズは怒りと憎しみ、その他の様々な感情がぐちゃぐちゃになったような顔で呪うように影人の名を呼んだ。どこまでも感情を剥き出しにした目と顔。いつも掴みどころがなく、悠々としていたフェルフィズが見せたその様子は、他の者たちを驚かせた。
「そうだ。その顔が見たかった」
影人は酷薄に嗤った。そして、一歩近づきフェルフィズに顔を近づける。
「嫌だよな。どうしようもないほどに嫌だよな。ここで殺されたいよな。だがダメだ。お前はこれから、生きながらに死ぬんだ」
「・・・・・・」
改めて影人はフェルフィズにこれからの末路を突きつけた。フェルフィズは視線で人を殺せるが如き眼光で影人を睨み続ける。手を縛られていなければ、今すぐにでも影人に掴みかからんとしていただろう。ギリッと何かが擦り合うような音が響く。それはフェルフィズの歯軋りだった。
「・・・・・・どうだ? これが俺がこいつを殺さない理由だ。こいつの顔を見れば、俺が甘いかどうか一目瞭然だと思うがな」
フェルフィズから顔を離した影人は周囲にいる者たち――特に反対意見を述べた者たち――に対してそう言った。
「ふむ・・・・・・確かに、そいつにとってはそれが1番の罰になるようだな。だが、そいつを飼い殺しにする牢獄に当てはあるのか? 何なら、俺様が不夜の祖城の地下に幽閉してやるぞ」
「一応、当てはある。少し待てよ」
影人は心の中である神に念話した。そして、心の内で二言三言言葉を交わす。それから少しの時間、影人が待っていると、了承の言葉が影人の中に響いた。
「・・・・・・よし、取り敢えずは大丈夫だ。いまシトュウさん・・・・・・真界の神の長を通して、神界の神の長・・・・・・ガザルネメラズさんに許可を取った。フェルフィズ、お前の幽閉先はお前の故郷であり、お前が退屈から逃げ出した場所・・・・・・神界だ」
「っ・・・・・・!?」
影人が口にした幽閉先。それを聞いたフェルフィズの顔が歪む。その表情が何を意味するのかは、誰の目に見ても明らかだった。
「ちっ、どうやらその神界とやらが1番そいつにとってはいいようだな。分かった。貴様の意見に賛成してやろう」
「殺しておくのが1番なんだろうけど・・・・・・うん。確かに、綺麗な心で死なれるのは嫌だな」
「・・・・・・あなたが甘さや同情から彼を生かすと言っていない事は理解しました。いいでしょう。レイゼロール様を苦しめた者には、地獄よりもなお酷い責苦を負ってもらわなければならない。私も賛成です」
影人の意見に反対していたシスが賛成に回る。続いて、ゼノとフェリートも意見を変えた。
「・・・・・・君の考えは分かった。確かに、罰という観点から見ればそれが1番よさそうだ。だが・・・・・・彼を生かしておくという危険は常にある。あの時殺しておけばよかったと後悔する日が来ないと言い切れるのか。君にその責任が取れるのか?」
レクナルは影人の考えに理解を示しつつも、ハサンやアイティレが言っていた問題点を再度指摘した。残りの反対者、ハバラナス、ヘシュナ、アイティレ、ハサンも、影人の答えを待つようにジッと影人を見つめる。
「そうですよ! 自分で言うのもあれですが、私は生きている限り邪悪と災厄を振り撒き続ける! もし自由になれば今度は何をするか分かりませんよ!?」
追随するようにフェルフィズが叫んだ。一切の余裕も恥もないその様子は、いかにフェルフィズが追い詰められているのかを如実に表していた。




