第1904話 真なる罰(3)
「「「「「・・・・・・」」」」」
一方、それ以外の者たち――例えば、陽華、明夜、暁理、光司、レイゼロール、シェルディア、ファレルナ、ソニア、風音、ロゼ、イズなど――はただジッと影人の言葉を待っていた。この場にいる全ての者の注目は間違いなく影人に集まっていた。
「・・・・・・勘違いするな。別に、同情からでも甘さからでも、こいつを殺さないって言ってるわけじゃない。俺はそんなに甘い人間じゃないからな」
全員から注目を集めた中で、影人はそう言葉を放った。
「なら、こいつを殺さないという理由はなんだ?」
シスが問い返す。同情からでも甘さからでもないというのならば、フェルフィズを殺さない理由は何なのか。それはこの場にいるほとんどの者たちが抱いた疑問でもあった。
「・・・・・・単純な話だ。こいつを殺さないこと。それが、こいつにとって1番の罰だからだ。死よりも重いな」
「っ・・・・・・」
「生かす事が死よりも重い罰だと・・・・・・?」
影人の言葉を聞いたフェルフィズは衝撃を受けたような顔になり、シスはよく分からないといった様子でそう呟いた。
「・・・・・・ああ。こいつは今まっさらな心持ちで、死ぬことを恐れちゃいない。むしろ、死を迎えたいとすら思ってる感じだろうぜ。これ以上の気持ちでは死ねないだろうからな」
影人はジッと金の瞳をフェルフィズの薄い灰色の瞳に向ける。まるで、フェルフィズの心の内を見透かすかのように。フェルフィズは影人の月の如き、全てを月光の下に晒されるようなその瞳から目を離す事が出来ない。ゾクリと、フェルフィズの心が、体が震えた。
「そんな奴をわざわざ死なせて罰になると思うか。いいや、ならないな。むしろ褒美だ。こいつが満足した気持ちで逝くこと。それが俺には許せないし我慢できない。なぜなら、それは俺たちの敗北だからだ」
影人は冷たい声で断言した。影人のその言葉に反論する者は誰もいなかった。影人の言葉は確かな、氷の如き冷徹さから放たれたものだと、誰もが理解し納得していたからだった。
「俺たちの勝利は、この最悪の神が泣き喚いて、許されない罪を悔いて、死の闇へと叩き込むことだ。そして、今こいつを殺してもその結果にはならない」
「・・・・・・やめろ」
変わらず影人の目から自身の目を逸らせないまま、フェルフィズは震えた声を漏らした。だが、影人はその制止の言葉に耳を貸さなかった。
「フェルフィズ、お前はさっき言ってたな。停滞している世界なんて死んでるのと同じだって。なら、お前にはもう1つの死をくれてやるよ」
「やめろ!」
悲鳴を上げるようにフェルフィズが叫ぶ。先ほどまでの穏やかさや満ち足りた気持ちは、もう既に完全に消え去っていた。今のフェルフィズを満たすのは――恐怖だけだった。
そして、
「フェルフィズ。お前にはこれから一生変わり映えのしない日々を送ってもらう。永遠の牢獄でお前の大嫌いな退屈に押し潰されろ。お前がまた狂っても、死にたいと叫んでも誰もお前を殺さない。俺が、いや俺たちがお前を殺すのは・・・・・・お前が生きたいと思った時だ」
影人はどこまでも無慈悲にそう宣言した。




