第1903話 真なる罰(2)
「・・・・・・ありがとよ」
影人は短くレイゼロールに感謝の言葉を述べた。そして、隣にいるフェルフィズに向き直る。
「君が私を裁きますか。少し意外な事になりましたね。まあ、もちろん君にも私を裁く権利はありますが。しかし、そうなると先ほどレイゼロールに言った嫌味の意味がなくなりますね。いやぁ、恥ずかしい」
「・・・・・・」
フェルフィズは冗談めかすように頭を掻いた。影人は何も言わず、ジッとただフェルフィズに目を向ける。何も言わずにただ見つめてくる影人に、フェルフィズは困った様子になり、やがて大きく息を吐いた。
「はぁー・・・・・・分かりましたよ。おふざけはなしだ。さあ、影人くん。さっさと私に裁きを下してください。『終焉』でも『世界』でも、それか私の大鎌でも、君が不死の私を殺す方法はいくらでもありますからね」
フェルフィズが影人にそう促す。フェルフィズは影人が自分に死を与える事を疑ってはいなかった。
だが、
「・・・・・・いや、俺は・・・・・・お前を殺さない」
影人はフェルフィズにそう答えを返した。
「は・・・・・・・・・・・・?」
「っ・・・・・・」
「・・・・・・」
影人の答えを聞いたフェルフィズは今日何度目になるか分からない、意味が分からないといった顔になり、口をポカンと開けた。影人にフェルフィズを裁く権利を譲渡したレイゼロールは、大きくその目を見開いた。イズも驚いたように表情を動かす。他の者たちもレイゼロールと同じく、影人の言葉に驚いた者たちがほとんどだった。
「・・・・・・どういうつもりだ影人。そいつを殺さないだと。ふざけるなよ。そいつがどれだけの事をしたと思っている」
「・・・・・・ああ、ちゃんとわかってるよシス。こいつは2つの世界を無理やり融合させようとした。それは、実質的な世界の破壊だ。その他にも余罪は尽きない。何があっても絶対に許される事じゃない」
「ならば分かっているだろう。そいつには死しかないと。そうでなければ誰も、少なくとも俺様は納得しない。本来ならば、この俺様がそれはそれは惨たらしく生きる事を後悔するほどのやり方で殺しているところだ。だが、今まで口を出さなかったのは、貴様たちの方がそいつと因縁があるという事、そいつが最終的には死ぬと思っていたからだ。その前提が崩れるのなら、口は出させてもらうぞ。場合によれば・・・・・・手もな」
シスがそのダークレッドの瞳で影人を睨みつける。シスから凄まじいプレッシャーが放たれる。肺腑が抉られるかのような尋常ならざる重圧は、シスが本気で怒り、影人と戦うことも辞さないという一種の証明であった。
「・・・・・・すまないが、こればかりは私もシスに同意だ。彼は情けをかけられる者ではない」
「敗者には死を。それが古来からの戦いの定則だ。そうでなければ、命を懸けて戦った戦士たちが納得出来ん」
『私もその者は生かしてはおけないと考えます』
レクナル、ハバラナス、ヘシュナ、シスと同じ古き者たちがシスと同じく反対の意見を唱えた。
「うーん、君が何を考えているのか分からないけど・・・・・・俺も殺さないって考えはあんまり賛成できないな」
「最後に同情でもしましたか? 言っておきますが、そんなものは一時の気の迷いだ。彼は生きているだけで災厄を振り撒く。いつか必ず彼を亡き者にしておけばよかったと思う時が来ますよ」
「・・・・・・そいつがまた何かよからぬ事をしでかした時、お前に責任が取れるのか。今回は運良く止められたが、次はないかもしれないんだぞ」
「・・・・・・これ以上、その神の邪悪による被害に遭う人たちを増やさないためにも、ここは厳正な裁きを行うべきだと私も思う」
闇人側からは影人と共に異世界にまでフェルフィズを追ったゼノとフェリートが、守護師側からは傭兵として敵の恐ろしさをよく知っているハサンが、光導姫側からは身内が被害に遭う悲しみを知っているアイティレが、影人とは反対の意見を述べる。古き者、闇人、守護者、光導姫、彼・彼女たちが述べた意見はどこまでも正論だった。他の多くの者たちも、影人に対し不満あるいは不審そうな顔を向けていた。




