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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
1901/2051

第1901話 最後の審判(4)

「「はい!」」

 陽華と明夜は2つ返事で頷いた。ゆっくりと顔を上げたフェルフィズは、安心の笑みを浮かべた。

「製作者・・・・・・私を作っていただいて、本当にありがとうございました」

 唐突にイズがフェルフィズに頭を下げた。驚いた顔を浮かべるフェルフィズに、顔を上げたイズはこう言葉を続けた。

「あなたに頂いたイズという名前と共に、私は・・・・・・私は生きていきます。私はあなたから頂いたばかりで何も返せてはいない。正直、出来る事ならあなたを死なせたくはない。多くの者たちかは忌神と疎まれ憎まれるあなたでも・・・・・・あなたは、たった1人の私の親だから」

「イズ・・・・・・」

「ですが・・・・・・製作者は死ななければならない。私の中がギュッとする・・・・・・恐らく、これが悲しいという感情なのでしょう」

 震えた声でイズの名を呟くフェルフィズに、イズは右手で胸部を押さえる。

「製作者、いえお父様。今までお疲れ様でした。あなたの事は決して、決して忘れません」

 明確な決別の言葉を放った事により、イズの中のギュッと何かが締め上げられるような感覚がより強まった。

 普通ならば、親との永遠の決別などすぐさまに割り切れるものではない。だが、イズはまだ心を自覚したばかりで、物事を客観視できる力も高い。ゆえに、イズは他者が聞けばいっそ冷たいとも感じられるほどに、決別を割り切れたのだった。

「・・・・・・お父様ですか。まさか、まさかあなたにそう呼ばれる日が来ようとは・・・・・・」

 しかし、決別の言葉を聞いたフェルフィズは万感の思いが込もった声でそう言葉を漏らした。愛しさや嬉しさ、その他の暖かな感情が内から湧き上がってくる。こんな感情を抱くのはいったいいつ以来だろうか。それに涙も溢れそうだ。

(ですが、もはや私にはそのような感情を抱く事も、感涙を流す資格もない。私は忌神。全ての世界の敵なのですから・・・・・・)

 フェルフィズも神だ。プライドはある。そして、ここで涙を流すのはそのプライドが許さなかった。死ぬ前にそんな惨めな姿は晒せない。フェルフィズは内頬をギュッと噛み涙を堪えた。 

「ええ。あなたはしっかりと生きなさい。ないとは思いますが、私のようになってはいけませんよ」

 フェルフィズは最後にイズにそう言うと、レイゼロールの方に顔を戻した。

「待たせてしまって申し訳ありませんね、レイゼロール。そして、待っていただいてありがとうございます」

「貴様に礼の言葉を吐かれる筋合いはない。気色の悪い。勘違いするな。我が待ってやったのはお前ではない。貴様に言葉を吐いた者たちを待ってやっていただけだ」

「ははっ、そうですか。それは失礼」

 フェルフィズに感謝されたレイゼロールは本気で不快そうな顔を浮かべた。フェルフィズは苦笑しながら軽く頭を下げた。

「・・・・・・忌神フェルフィズ。これより、貴様が弄んだ全ての者に代わり、我が貴様に死の裁きを与える」

 レイゼロールは改めてそう宣言すると、自身の体から噴き出す『終焉』の闇を剣の形に固めた。

「ほう、『終焉』の闇を固めて武器に出来るのですか。便利ですね。しかし、なぜ剣の形に・・・・・・ああ、なるほど。レゼルニウスを殺した神殺しの剣。それがモデルですか。人間を唆し彼を殺させた事に対する意趣返し・・・・・・うん。中々にいい処刑方法だと思いますよ」

「黙れ。分かっているなら口に出すな」

 頷くフェルフィズをレイゼロールが睨みつける。フェルフィズの指摘は今レイゼロールが認めた通りだった。

「この『終焉』の剣を兄さんが神殺しの剣で刺された箇所・・・・・・胸部に穿つ。それで、全て終わりだ」

 レイゼロールが剣を持った右腕を引く。いよいよ全ての元凶が死ぬ。場の空気が緊張し沈黙が支配する。

「ふっ・・・・・・まさか、こんな満ち足りた気持ちで死ねるとは。いやはや・・・・・・やはり、生とは分からないものだ」

 フェルフィズは言葉通り満足げに笑った。心がすっきりと晴れ渡っている。まるで浄化されたかのようだ。今やフェルフィズは完全に死を受け入れていた。

「・・・・・・」

 影人はそんなフェルフィズをジッと見つめていた。

 そして、その時は来た。

「これで・・・・・・終わりだ」

 レイゼロールが右腕を動かし、フェルフィズの胸部に『終焉』の剣を突き立てんとする。これで全ての因縁が終わる。

 だが、そう思われた時、

解放リリース――『終焉ジ・エンド』」

 ポツリとそんな言葉が放たれた。次の瞬間、レイゼロールがフェルフィズの胸部に穿たんとした剣は闇に阻まれた。結果、フェルフィズに剣が届く事はなかった。

「なっ・・・・・・」

「っ・・・・・・?」

 その光景にレイゼロールは驚愕し、フェルフィズは訝しげな顔になる。他の者たちも、心の中で思い描いていたものとは違うその光景に、何が起きたか分からないといった顔を浮かべていた。

「何の・・・・・・何のつもりだ!? ・・・・・・()()!」

 全てを終わらせる『終焉』の剣を阻む闇など1つしかない。レイゼロールは自身の剣を阻んだ人物、自身がよく知る少年に向かって叫んだ。

「・・・・・・悪いな。レイゼロール」

 レイゼロールに名を呼ばれた影人は軽く帽子を押さえた。

 そして、

「やっぱり、そいつの生殺与奪の権・・・・・・俺にくれないか?」

 そう言った。

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