第1900話 最後の審判(3)
「あの、フェルフィズさん・・・・・・」
「はい?」
突然、陽華が真剣な顔でフェルフィズの名を呼んだ。フェルフィズは陽華の方に顔を向けた。
「その、フェルフィズさんがやった事は許される事じゃないと思います。私たちじゃ助けられないくらいにもう取り返しがつかない・・・・・・ごめんなさい。あなたを救えなくて」
「・・・・・・・・・・・・は?」
陽華に謝罪されたフェルフィズはポカンと口を開けた。意味が分からなかった。なぜ敵に、それも今日あったばかりのフェルフィズにこの少女は謝っているのだ。その理由も分からない。救えなくて? 救えるはずがない。フェルフィズはもうその段階にはいないのだから。とにかく、フェルフィズには全てが意味不明だった。
「私からも謝罪するわ。光導姫として、そして私個人として。あなたを救えなかった。あなたには意味が分からないと思うし、私たちの傲慢さに怒りも湧いてくるかもしれない。だけど、それでも・・・・・・ごめんなさい」
陽華に続き、明夜もフェルフィズに謝った。陽華と明夜から謝罪を受けたフェルフィズは、しばらくの間呆気に取られていたが、やがて大きな声で笑った。
「くくくくっ・・・・・・あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ! 嘘ではなく、心の底からあなた達はそう思っているんですね! ほ、本来なら笑うべき場面ではないのでしょうが・・・・・・ぷくくっ、ひ、ひひひひひひひひひひひひっ! お、おかしいですね・・・・・・!」
腹が捩れるほどにフェルフィズは笑った。陽華と明夜の言葉がおかしくて、おかしくて。笑いが止まらなかった。
「え!? わ、私たちそんなに変なこと言った・・・・・・?」
「さ、さあ・・・・・・でも、すごい大爆笑ね・・・・・・」
急に爆笑し始めたフェルフィズに、陽華と明夜は不思議そうな或いは少し引いたような顔になった。周囲にいた他の者たちも同様の顔を浮かべる。
「はあ、はあ・・・・・・わ、笑いすぎてお腹が痛い。これだけ笑ったのは初めてかもしれませんね」
ようやく笑い声を収めたフェルフィズは、目に涙を滲ませながらそう言葉を述べた。
「しかし、あなた達は忌神すらも救おうと思っていたのですね。甘さすら通り越して逆に尊敬しますよ。全く、真性のお人好しですね。あなた達は。ですが・・・・・・そんなあなた達だからこそ、イズを救えたのでしょうね」
フェルフィズは陽華と明夜に向かって微笑んだ。どこか嬉しそうに。
「あなた達、名前は何と言いますか?」
「朝宮陽華です」
「月下明夜」
「陽華くんに明夜くんですね。共に補い合うような、陰陽が合わさりあうようないい名前ですね。先ほど影人くんには言いましたが、あなた達にも改めて言わせていただきたい。イズの事をどうかよろしくお願いします」
フェルフィズは陽華と明夜に向かって頭を下げた。あのフェルフィズが光導姫とはいえ、ただの少女たちに頭を下げている。その光景は衝撃的なものだった。




