第190話 己の内へと(2)
「確か千年くらい前にエジプト辺りで拾った物だったかしら。これはけっこう特別な装飾具でね、身に付けた者の「力」を一時的に封印する封印具でもあるの。外せば普通に力は使える筈だから安心して。まあ、私は自分でそこら辺の気配は誤魔化せるから結局使わなかったけれど」
「え、ええっ!? これ、滅茶苦茶凄い魔導具みたいなもんじゃないですか!! シェルディア様こんな物持ってたんですか!?」
渡された腕輪の価値にキベリアは震えた。魔法を研究するキベリアにはこの腕輪の真の価値がよく分かった。この腕輪は古代の魔導的遺産の側面を持っている可能性もある。
「ええ。この話をしていて、いま思い出したの。で、後はレイゼロールに手紙で事情を伝えれば終わりね。ええっと、便箋とペン――」
シェルディアは影から古風な便箋と羽ペン、そしてインクを取り出すと手紙をしたためた。まあ、書いたのはただ一言、「キベリアをしばらく借りる」という事だけだが。そして自分の名前を記し、手紙という名の一言メモは完成した。
「よし、出来たわ。じゃあ後はこれを送るだけね」
シェルディアは左手を宙に伸ばした。すると小さな黒い渦のようなものが突如として出現した。
シェルディアはその渦に手紙を放り投げる。そして手紙は渦に飲み込まれその姿を消した。パチンとシェルディアが指を鳴らすとその渦も虚空へと収束しやがては消えていった。
「はい、これで万事解決ね。ふふっ、これからよろしくね? キベリア」
「あ・・・・・・・・・・・・はい」
弾けるような笑顔のシェルディアと対照的に、全ての逃げ道を封じられたキベリアは何かを諦めたような顔でそう頷いた。
「――つーわけだ、今度こそ理解出来たかクソ女神」
「ナチュラルにクソ女神はやめて下さい。はい、話は理解出来ました。なんというか・・・・・・・あなたは本当にすごいというか無茶苦茶というか、とにかく凄まじい度胸ですね」
イマイチ状況を理解していなかったソレイユに、詳細に事情を話した影人はソレイユの言葉に面倒くさそうに言葉を返した。
「しゃあねえだろ。やられっぱなしは腹立つし、そうしなきゃ悪意の正体も分からなかったんだからよ」
「うーん。普通の人間はそのような状況に陥れば、あなたのような選択はしないと思いますが・・・・・・」
ソレイユはどこかズレている影人の言い分に苦笑を浮かべた。この少年は見た目と中身が矛盾しているとは依然から感じていたが、今の話を聞いてその考えはより強まった。
「それで影人。あなたはその何か・・・・・あなたが言う悪意の正体を掴んだと言いましたが、その正体とはいったい何なのですか?」
表情を真剣なものに変え、ソレイユは自分の対面に座っている影人にそう質問した。詳細に影人の話を聞くために、ソレイユはテーブルとイスを召喚していた。
「・・・・・・・別にもったいぶってる訳じゃない。だが、冷静に今までの事を考えればヒントはけっこうあったんだ」
影人はそう前置きすると、今までの事を思い出しながらソレイユに自分の見解を語った。




