第1898話 最後の審判(1)
「・・・・・・話は終わったようだな」
戻ってきたフェルフィズと影人を交互に見つめながら、レイゼロールがそう言った。その言葉にフェルフィズと影人は「ええ」「ああ」と頷いた。
「・・・・・・では、我が裁きを下させてもらう。『終焉』の女神レイゼロールが忌神フェルフィズに下す裁きは1つ。死の裁きだ。死して貴様の罪が消える事はない。だが、貴様に出来る最大の贖いはその身を捧げる事だけだ。生きる限り邪悪を振り撒く忌神よ。覚悟はいいな?」
レイゼロールが冷酷にフェルフィズに宣言を下す。周囲にいた者たちのほとんどが、その顔をより真剣なものに変える。否応にも空気が引き締まり張り詰めた。
「ええ。流石の私もこの状況で今更どうにか出来るとは思っていませんよ。・・・・・・ですが、私は邪悪な忌神ですからね。あなたに殺される前に1つ嫌味でも言って死にましょうか」
フェルフィズは意地の悪そうな顔を浮かべると、こう言葉を吐いた。
「確かに、私は罪深き神ですよ。私の罪が消える事はない。それこそ、私が死してもね。しかし、罪深き神なのはあなたも同じですよね? レイゼロール」
「っ・・・・・・」
フェルフィズがニタリと嗤う。名を呼ばれたレイゼロールはピクリと表情を動かした。
「原因を作ったのは私とはいえ、あなたはどれだけの罪をこの世界で犯して来ました? 罪という概念は人にだけ当て嵌まるものではない。上位存在である我々神にも該当する概念です。神も罪悪感は抱きますし、現にあなたは罪という概念から私を裁こうとしている」
「・・・・・・」
ニタニタと悪意を隠さぬ口調で忌神はレイゼロールにそう言った。レイゼロールは黙って、そのアイスブルーの瞳でジッとフェルフィズを睨みつける。
「ねえ、教えてくださいよレイゼロール。何人もの人間を眷属である闇奴に変え、光導姫や守護者といった何人もの少年少女たちを殺し、あまつさえこの世界を破滅させかけたあなたの罪が消える事はない。そんなあなたに本当に私を裁く権利があるのか。いやはや、実に疑問ですねえ」
「っ、貴様・・・・・・」
「口が過ぎますよ」
フェルフィズの言葉に殺花とフェリートが反応する。2人ともレイゼロールへの忠誠心が特に高い闇人だ。殺花とフェリートはフェルフィズを睨みつけ、今にも襲い掛からんとする様子であった。
「・・・・・・我の罪と断罪の資格か。そうだな。確かに我が犯した罪は消えない。それこそ、永遠にな。罪に塗れたこの手で誰かを裁く権利があるかと問われれば、正直難しいところだ」
「っ、レイゼロール様・・・・・・」
レイゼロールはフェルフィズの指摘を認めた。フェリートは少し驚いたようにレイゼロールを見つめた。当然、殺花もだ。
「だが、我は我の犯した罪を未来永劫に背負って行くと決めている。誰の許しも請わん。生きる限り罪と向き合い背負い続け、もし死すれば地獄の業火に焼かれるだけだ」
「なるほど。つまりは開き直りですか」
「なんとでも言え。そして、罪に塗れた我だからこそ、同じく罪に塗れたお前を断罪できる。悪を裁くのが常に正義とは限らん。悪だからこそ裁ける悪もある・・・・・・クズを裁くのに罪悪感など抱かずに済むし、苛烈に断罪も出来るからな」
レイゼロールは迷いのない顔でそう言うと、こう言葉を続けた。
「それに、そもそもそれとこれとは話が別だ。悪いが、我はその辺りは割り切れる」
「くくっ・・・・・・ははははっ、そうですか。なるほど。あなたも随分と強くなった。いや、意地が悪くなったと言うべきなんですかね」
フェルフィズは愉快そうに笑った。あの幼くフェルフィズの悪意に振り回されていた神が、今はこうしてはっきりとした意志を持ち、自分の悪意を正面から受け止め、振り切っている。人が成長するのは当然として、神も成長する。その事実を、フェルフィズは改めて知った。




