第1897話 決着、忌神との決戦2(5)
「・・・・・・そんなもんか。お前が狂って全方位に悪意を振り撒いた原初は」
「そんなものですよ。しっかりとした理由や悲しき過去でもあれば、もう少し説得力があったり格好よかったんですがね。陳腐で拍子抜けするでしょう。そして、私に対する更なる怒りも湧いてきたはずだ。そんな理由で、とね」
フェルフィズはフッと笑った。影人は再び黙ったかと思うと、こう口を開いた。
「・・・・・・俺は日常も非日常も知ってる。本当は非日常なんか知りたくはなかったがな。今も絶賛非日常の中だ」
影人は非日常の象徴であるスプリガンの姿を見下ろした。レイゼロールを浄化した後、影人はもう非日常と関わる事はないと思っていた。だが、様々な出来事によって影人は今もこうして生き、スプリガンになっている。
「俺は非日常の刺激よりも、日常の退屈さの方が大事だと、愛しいと知っている。・・・・・・だが、非日常が必ずしも悪いものだとは思わない。非日常を通してこそ結べない縁や絆もあるからな。零無と出会った後、俺は非日常を忌避していた。だけど、今は違う。非日常の日常も、非日常の俺も、全部ひっくるめて今の俺は俺だからだ」
影人は真剣な顔でそう言い切った。そして、フェルフィズにスプリガンの金の瞳を向けた。
「フェルフィズ。俺はお前を理解できないし、したいとも思わない。だけど、狂った忌神と呼ばれるお前も、過去の狂う前のお前も含めてお前なんだな。それだけは心に刻んどいてやるよ」
「っ・・・・・・」
影人の言葉を受けたフェルフィズは一瞬驚いた顔を浮かべ、やがて可笑しそうに笑った。
「ははははっ、全く君は・・・・・・本当にお人好しのバカですね」
「何を勘違いしてやがる。俺はお人好しでもバカでもない」
「そう言い切るところも含めてですよ。ですが・・・・・・嫌いじゃない」
フェルフィズは満足したような顔を浮かべた。そして、いつもの胡散臭い表情になる。
「さて、そろそろお話も終わりですかね。最後の会話としては十分に楽しめましたよ」
「そうかよ。俺は楽しいとは全く思わなかったがな」
影人が立ち上がる。続いて、フェルフィズも立ち上がった。
「では、受けに行きましょうか。『終焉』の女神による最後の審判を」
「・・・・・・ああ」
フェルフィズがレイゼロールや他の者たちがいる場所に向かって歩き出す。影人も万が一にもフェルフィズが逃げ出さないように、フェルフィズの後に続いた。
――いよいよ、忌神に最後の時が訪れようとしていた。




