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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
1895/2051

第1895話 決着、忌神との決戦2(3)

「・・・・・・さっきから思ってたが、長年の目的が失敗したっていうのに随分と普通だな。強がってるとかそんなのじゃない。お前はこの結果に本当にそれほどショックを受けてない。なぜだ?」

 影人がフェルフィズに疑問をぶつける。フェルフィズは影人と同じように軽く月を見上げた。

「・・・・・・確かに、この世界を破滅させる事が私の長年の目的でした。今回の計画、2つの世界の境界を崩壊させ、2つの世界を1つにし、破滅的な混乱をもらたしこの世界を破滅させる・・・・・・この計画は私にとって、もっとも目的に近づいたものだった。実際、あとほんの少しで境界は崩壊していましたからね。まあ、結果はこのように君たちに止められてしまったわけですが」

 フェルフィズはそこで一旦言葉を止めた。そして、月を見上げるのを止めフッと笑った。

「ですが、君の言う通り今の私にそれほどのショックはない。一応、生きる目的くらいにはなっていたんですがね。それでも、私がそれほどショックを受けていないのは・・・・・・恐らく、いい光景が見られたからですよ」

「いい光景?」

「ええ」

 フェルフィズは視線をとある場所に向けた。フェルフィズの視線の先にいたのは、イズとその近くにいる陽華と明夜だった。イズは一見すると無表情に見えるが、どこか不安げな様子でフェルフィズを見つめていた。イズの近くにいた陽華と明夜も、真剣さと不安さが混じったような、なんとも言えない顔でフェルフィズと影人に目を向けていた。

「彼女が・・・・・・イズが笑いましたからね。あの2人の光導姫との戦い・・・・・・という名の対話がイズを変えた。私はね、嬉しいんですよ。あの子が心を自覚した事が。あの子が笑った事が。・・・・・・1度はあの子を恐れた私ですが・・・・・・今は彼女を生み出した者として、あの子が成長した事が嬉しいんです」

「・・・・・・はっ、つまりは親気取りの気持ちってわけか。世界に悪意を振り撒きまくった忌神が、随分とぬるい気持ちを抱いたもんだな」

「ええ、自分でも不思議です。自分でいうのもあれですが、私は掛け値なしの邪悪ですからね。それでも抱いてしまったのですよ。親のような気持ちを。この私が。くくっ、全く滑稽だ」

 フェルフィズが自虐の笑みを浮かべる。物作りの神として、フェルフィズは自身が生み出した全てのモノに対して思い入れ――もしくは愛と呼べるかもしれない――はある。だが、一個の確かな自我を持ったイズに対しては、他のモノよりもその思い入れが強かった。

「・・・・・・ああ、そうだな。本当に滑稽だ」

 影人は軽く右手で帽子を押さえた。今更そのような気持ちを抱いたところで、フェルフィズに待ち受けているのは死の破滅だけだ。更生の機会など、フェルフィズには訪れない。

「とまあ、私があまりショックを受けていない理由はそんなところですかね。私は死にますが、少なくともイズが消滅する事はないでしょう。色々と制限が付き厳しい環境に置かれはするでしょうが・・・・・・イズを救った彼女や君たちが、イズの消滅という選択肢を取る事はない。その事も分かっているので、心配事もありませんよ。心残りがないと言えば嘘になりますが・・・・・・死は受け入れられる心持ちです」

 フェルフィズは穏やかな顔を浮かべていた。いつもフェルフィズの薄い灰色の瞳の奥に燻っていた狂気の炎も今は見られない。フェルフィズは本当の意味で穏やかだった。

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