第1894話 決着、忌神との決戦2(2)
「・・・・・・分かった。確かに、お前もフェルフィズとは因縁浅からぬ者だ。好きにしろ。ただし、止めは我がもらう。忘れるな」
「分かってるよ」
レイゼロールが影人の頼みを了承する。影人は頷くとフェルフィズに声を掛けた。
「・・・・・・そういうわけだ。付き合ってもらうぜ、フェルフィズ。俺との最後のおしゃべりにな」
「・・・・・・いいでしょう。どのみち、私に拒否権はない。付き合いますよ。これが、私の神生最後の語らいだ」
フェルフィズは諦めたように笑った。影人はフェルフィズの体に巻き付いていた鎖を『破壊』の力で1度壊すと、影闇の鎖をフェルフィズの両手首に巻き付かせた。まるで手錠のように。見た目の拘束力はダウンしたが、影闇の鎖は対象を絶対に縛り付ける概念を有した鎖だ。むしろ、ただの鎖よりは強力にフェルフィズを拘束した。フェルフィズを拘束したレイゼロールもその事は理解していたので、特に文句は言わなかった。
「着いて来い」
そして、影人はそう言ってレイゼロール達の元から離れた。
「・・・・・・座れよ」
2人きりで話したいといった都合上、レイゼロールたちから離れた場所に移動した影人は、スプリガンの力で闇色のベンチを創造した。影人はその端に腰を下ろした。そして、フェルフィズに自分が座っている場所とは端の場所を指差す。
「これはご丁寧に。では失礼しますよ」
影人に促されたフェルフィズがベンチの端に腰掛ける。影人とフェルフィズの間には、丁度人が1人か2人分座れるスペースがあった。2人の間にあるその距離は決して遠いものではなかったが、永遠に近づく事のないものだった。それは影人とフェルフィズの関係を端的に示すものだった。
「それで、私にどのような話を? どうせ最後です。嘘偽りなく何でも話しますよ。出血大サービスというやつです」
「・・・・・・何かしっくり来ねえな。ああ、わかった。天井が邪魔なのか」
「・・・・・・はい?」
影人が天井を見つめながら突然そんな事を呟く。その呟きを全く理解できなかったフェルフィズは、意味が分からないといった顔を浮かべた。
「解放――『終焉』」
影人は再び『終焉』の闇を解放した。そして、その闇を天井に向かわせる。『終焉』の闇は天井を舐め尽くす。不壊属性を持つ忌神の神殿といえども、全てを終わらせる闇の前では無力だ。天井は徐々に消滅していき、やがて全て消えた。結果、星が散らばる夜空がその姿を現した。いきなり天井が消えた事に、他の者たちは多少戸惑った様子だった。
「よし、これでいい。こっちの方がそれっぽい、最後っぽい雰囲気になるだろ」
『終焉』を解除した影人が満足そうに頷く。影人の呟きを聞いたフェルフィズは、呆気に取られたような顔を浮かべていたがやがて笑った。
「くく・・・・・・ははははっ。全く、君は本当に面白いですね。こんな時にロマンチックを求めるとは」
「いい言い方をするんじゃねえよ。俺はただ、最後の話し合いらしく夜の静謐さを求めただけだ」
「それをロマンチックと言うんですよ」
フェルフィズがやれやれといった様子になる。影人は夜空に浮かぶ美しい月を軽く見上げた。




