第1893話 決着、忌神との決戦2(1)
「境界の崩壊は防いだ。奴・・・・・・イズもあの様子では、今すぐに我たちに攻撃してくるという事もあるまい。残るは・・・・・・お前だけだ、フェルフィズ」
レイゼロールは自身の瞳の色と同じ冷たい目で、地面に転がっているフェルフィズを見下ろした。
「まず言っておく。貴様にイズのような結末は訪れん。絶対に。永久にな。お前に待っているのは死の闇辺だけだ」
「は、はは・・・・・・でしょう・・・・・・ね」
死の宣言を聞かされたフェルフィズは驚いた様子もなく、当然のようにその言葉を受け入れた。
フェルフィズはやり過ぎた。この世界に、様々な者たちに悪意を振り撒き過ぎた。一片の同情の余地もなく、慈悲もなく、フェルフィズは死の裁きを受ける。それはイズが救われ計画が頓挫した瞬間に決まっていた事だ。
「お前も無論異論はないな? ・・・・・・影人」
レイゼロールが視線をフェルフィズから逸らす。レイゼロールの近く、フェルフィズの正面にはこちらに移動して来た影人の姿があった。
「・・・・・・ああ、まあな。こいつはどうしよもない邪悪だ。許されざる存在だ。俺もこいつを生涯許す気はねえよ。こいつにはもう死ぬしか道は残されてない」
「・・・・・・決まりだな。こいつを、忌神フェルフィズを殺す。止めは我が刺しても構わんな? こいつは我を絶望の闇に陥れた全ての元凶だ。兄さんも、こいつのせいで・・・・・・!」
レイゼロールが抑えきれぬ怒りを声に滲ませる。レゼルニウスを奪い、影人を陥れ、レイゼロールに2度の絶望を与えた。レイゼロールにとって、フェルフィズはまさに全ての元凶だった。
「・・・・・・別にお前がこいつを殺す事に異論はねえよ。俺もこいつとは因縁はあるが、憎しみを清算するっていう意味を考えれば、お前が1番相応しいだろうからな。だが・・・・・・少しだけ、時間をもらうぜ」
影人はレイゼロールにそう断ると、一歩フェルフィズに近づいた。スプリガンの金の瞳で満身創痍のフェルフィズを見下ろすと、スッと右手をフェルフィズに向けた。
すると、次の瞬間影人の右手から暖かな闇がフェルフィズに向かって流れた。その闇はフェルフィズを包み込み、フェルフィズの損傷を全て癒した。
「っ・・・・・・?」
「なっ・・・・・・」
影人がフェルフィズの傷を癒した事に、フェルフィズ本人は訝しげな顔になり、レイゼロールは驚いた顔になった。驚いたのはレイゼロールだけではない。それ以外の多くの者たちも驚き、或いはフェルフィズのように訝しげな顔を浮かべていた。
「影人、お前何をしている!? なぜフェルフィズの傷を癒した!?」
「落ち着けよ。ただ単に、あのままだと話しにくいと思っただけだ。それ以上の他意はない」
レイゼロールの詰問に影人は冷めた様子で答えを返した。
「一応、俺にもこいつとは清算すべき因縁がある。だから、最後にこいつと少し話がしたい。2人きりでな。それくらいなら別にいいだろ?」
続けて影人はそう言った。既にフェルフィズは自由を奪われ影人たちに包囲されている。更にはこの建物内は転移不可エリア。そのルールは設定者であるフェルフィズも縛られるはずだ。つまり、完全に詰み。フェルフィズは今度こそ本当に逃げる事は出来ない。ゆえに、影人は少しの時間を求めたのだった。




