第1891話 決着、忌神との決戦1(3)
「・・・・・・」
イズはどこか放心したような様子で座り込みながら、自身の本体である大鎌を見つめていた。アオンゼウの器に入り今でこそ人型になっているが、イズの本来の姿、本来の形はこの大鎌だ。ただの武器。如何なるモノをも殺す絶対死の力。どのような存在からも忌避され恐れられるモノ。
「はあ、はあ、はあ・・・・・・ケホッケホッ! イ、イズちゃん・・・・・・」
「はあ、はあ、はあ・・・・・・と、届いたかしら・・・・・・私たちの想いは・・・・・・」
そんなイズに向かってそう声を掛けながら、ゆっくりとイズの方に向かって来る者たちがいた。陽華と明夜だ。2人とも全ての力を使い切ったためだろう。変身は解除され、学校の制服姿だった。目立った外傷こそなかったが、2人の声は掠れその顔には隠し切れぬ疲労の色が浮かんでいる。ボロボロ、と形容するのが1番ピッタリであった。
「・・・・・・見れば分かるでしょう。ええ。あなた達のお節介極まりない、いっそ身勝手な想いは・・・・・・私の中に確かにあります」
イズは右手で自身の胸部に触れた。この器は鼓動を持たぬ身だ。あるのは冷たさだけ。だが、確かにイズは己の内に確かな熱が、自身の心に灯る陽華と明夜の想いを感じていた。
「・・・・・・あなた達の言うように、私には心があった。不思議なものですね。私の本体はこの無機質な大鎌だというのに」
「何が本体かなんて・・・・・・きっと関係ないよ。イズちゃんはイズちゃんだよ。誰も代わりなんてない。かけがえのない存在だよ」
「そうよ。人だとかそんなものは関係ないわ。あなたはあなたよ」
イズの前まで近づいた陽華と明夜は、しゃがむと優しく笑った。2人の笑顔を見たイズは少しだけ目を見開くと、小さく口角を上げた。
「ふっ・・・・・・そうですね。確かに、私の代わりはいない。私は1つの、確固たる存在なのですね」
自己に対する肯定感とでもいうべきようなものがイズの中から湧き上がってくる。イズの笑みを見た陽華と明夜は明るい顔を浮かべた。
「イズちゃん。私たちはあなたの事をもっと知りたい。イズちゃんにこの世界の事を知ってもらいたい。辛くて苦しい事も多いけど・・・・・・この世界は、生きるって事は楽しいって。少しでもそう思ってもらえたら、私たちは嬉しいな」
「これからゆっくり自分の事や世界の事を知っていけばいいわ。時間はたっぷりあるし。もちろん、何かに困ったら私たちが力を貸すわ。まあ、私たちはただの高校生だから、そんなに力にはなれないかもだけど・・・・・・それでも全力で力を貸すわ。私たちで足りないなら、他の人を頼りましょう。きっと力を貸してくれるわ。世界はそうやって回っているんだもの」
陽華と明夜はスッと自分たちの手を重ねてイズに差し出した。とびきりの笑顔を浮かべながら。
「イズちゃん、よかったら私たちと――」
「イズちゃん、お願いよ。私たちと――」
そして、陽華と明夜は声を重ねてこう言った。
「「友達になってください」」




