第1890話 決着、忌神との決戦1(2)
『帰城影人。言うまでもない事ではありますが、すぐに符を外されるような事だけは防いでください。亀裂は安定したばかり。いま符を外されれば今度こそ境界は崩壊します』
「それは大丈夫だ。ここの敵は全員・・・・・・無力化したからな」
影人はいつの間にか鎖で縛られていたフェルフィズを見ると視線を移した。影人が視線を移した先にはイズがいた。既に光の奔流は収まっており、イズは兵装を解除し、自身の本体である大鎌だけを両手に持ちながら座り込んでいた。今のイズからはとても戦闘の意思は感じられなかった。
『そうですか。安心しました。では、本当の本当にギリギリでしたが・・・・・・今ここに、忌神フェルフィズの計画は完全に頓挫した。あなた達の勝利です。素直に称賛を。おめでとうございます』
「正直、マジで今回俺は何もしてないから、その言葉は違和感しかないんだが・・・・・・一応、ありがとうって言っとくぜ。あいつらにも伝えて――」
『おいそろそろ吾に変われシトュウ! 影人影人! 吾だよ零無だ! よくフェルフィズの奴の計画を潰せたな! 流石は愛しい愛しいお前だ!』
『影人! おめでとうございます! やりましたね! みんなが力を合わせた大勝利です!』
影人がシトュウに言葉を返そうとすると、突然影人の中に2つの女の声が響いた。前者は零無、後者はソレイユだった。2人ともかなり興奮した様子だった。
「っ、零無にソレイユか? ちょ、ちょっと待て。今はシトュウさんと話してるんだよ」
念話に慣れている影人も頭の中に2つの声が同時に響くのは初めてだった。影人は違和感のようなものを感じながら、零無とソレイユ、2つのチャンネルを同時に意識し2人にそう念話した。
ちなみに、影人は念話が同時に行われた事が初めてだと思っているが、実は初めてではなかった。前例は、シェルディアの正体を知った時の警告として既にあった。だが、あの時の影人は半ば放心状態だった。そのため、影人は今回頭の中に違う声が同時に響いた事を初めてだと錯覚していたのだった。
『はあ? 吾はずっとずっとお前に声を掛けるのを我慢してたんだぞ! お前のためを思って! あと数時間はお前の声を聞くからな! いや、それよりもお前の元に行った方が早いな! よし、待っていろ影人! 今すぐに吾がそこに降臨して――』
『やめなさい零無。あなたには私と境界を安定させる作業がまだ残っているでしょう。今地上に降りる事は許可しませんよ』
『別に少しくらいはいいだろう! ええい離せシトュウ! 吾は影人の元に行くんだ!』
『あ、そうでしたか。分かりました。ではもう少し後で。影人、また祝杯をあげましょう!』
「ぐおぉ・・・・・・か、姦しい・・・・・・あ、頭がどうにかなりそうだ・・・・・・」
零無、シトュウ、ソレイユの声が頭の中で反響する。影人は自分にしか分からない苦しみを感じながら頭を押さえた。
――相変わらず、締まらない野郎である。




