第1889話 決着、忌神との決戦1(1)
陽華と明夜、イズの互いに全てを懸けた最大級にして最後の一撃。そのぶつかり合い。一瞬とも永遠とも思われる時間の果てに、最後に押し切ったのは陽華と明夜だった。陽華と明夜の光の奔流は、イズの死神のオーラ纏う死の斬撃を消し飛ばし、イズに届いた。
(暖かい・・・・・・それに、先ほどまでとは比べ物にならない想いが私の中に流れ込んでくる・・・・・・これが、あの2人の・・・・・・陽華と明夜の全ての想い・・・・・・)
光の奔流に呑まれたイズは、どこまでも優しい暖かな光を心で感じた。その光は善意の押し付けではなく、善意の光で焼き尽くすものではなく、イズの心に寄り添う光だった。光を通して、イズは陽華と明夜の事を、陽華と明夜がどのような想いで光導姫として戦って来たのかを知った。
(いつもいつも、自分たちが傷つく事も厭わずに・・・・・・最後まで何かを、誰かを信じて・・・・・・ああ、愚かですね。本当に愚かだ・・・・・・)
だが、その愚かしさこそが人間という生物の愛おしさなのかもしれない。そして、この光はそんな愚者だからこそ生み出す事の出来る光。イズはそう思った。
(いや・・・・・・愚かなのは私も同じですか。この光に心地よさを感じ、そして感化されているのですから)
自覚してまだ間もないイズの心に、様々な思いが芽生え、あるいは既にあった思いが強まる。この世界や未来、自身に対する興味。その他にも言い表せないほどの思い。それらは元々イズの中にあったものだ。それらが陽華と明夜の光で活性化した。恐らく、そう形容するのが正しいだろう。
「・・・・・・」
一瞬とも永遠とも思えるような時間、イズは心地よい光を浴び続けた。
『帰城影人。境界の崩壊まで残り1分を切りました。もう本当に限界です。すぐに亀裂に符を貼ってください』
陽華と明夜がイズの一撃を押し切り、イズに光の奔流を浴びせた瞬間。影人の中にシトュウの声が響いた。それは紛れもない最後通牒の言葉だった。
「ああ、分かってる・・・・・・!」
影人はシトュウにそう言葉を返すと神速の速度で地を蹴った。その際『終焉』を解除する。恐らく、すぐさま使うような機会はないはずだからだ。影人は通常のスプリガンの姿で亀裂に至ると、シトュウから預かった符を亀裂に貼った。
『感謝します。これで・・・・・・!』
珍しい事にシトュウの声には力が入っていた。既に空間にひび割れていない所はほとんどなく、揺れもこれまでで1番強いものになっていた。この世界と向こう側の世界。2つの世界の境界が崩壊し、混沌の世界が産声を上げるまで比喩ではなくあと数十秒。
しかし、途端にピタリと亀裂の増加と揺れが収まった。まるで冗談のように。すると再び影人の中にシトュウの声が響いた。
『ふぅ・・・・・・何とか間に合いました。私と零無の力で主要な6つの亀裂は安定し、境界の崩壊は食い止められました。これで、2つの世界が融合する事はありません。亀裂も徐々に戻るでしょう』
「そうか・・・・・・はぁー・・・・・・よかったぜ・・・・・・」
その言葉を受けた影人が大きく安堵の息を吐く。焦りはあまりなかったが、実際にあと数十秒で境界が崩壊していたと考えると、自然とホッとした。




