第1888話 無機なる心を救う光(5)
「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ・・・・・・!」
陽華と明夜は声を上げ続け、イズも2人ほど大きくはないが声を上げる。互いの全てを懸けた攻撃はより強い斥力場と衝撃波を発生させる。もはや、全てを吹き飛ばす嵐のような。陽華と明夜、イズの攻撃の衝突を見守っている者たちも今にも吹き飛ばされそうになる。衝突の光景を見守っている者たちは、それぞれ斥力や衝撃波を防ぐ障壁を展開した。自力で障壁を展開できない者たちも、その障壁に内包され守られた。
極限と限界を超えた光の奔流と死の斬撃。2つの究極の攻撃の衝突に遂に世界が軋み始めた。周囲には小さな時空の歪みが生じ始めている。このままではこの周囲の時空が崩壊するだろう。忌神の神殿が壊れていないのは、単にこの建物が不壊属性を持っているだけという理由に過ぎない。そうでなければ、この最頂部はとっくに壊れているはずだ。
「「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
陽華と明夜は声が枯れ血を吐いても叫び続ける。イズも気づけば今まで1番大きな声を上げていた。陽華と明夜、イズの攻撃は尚も、尚もその出力や威力を増しぶつかり続ける。正に全身全霊。魂そのものの攻撃。陽華と明夜、イズは互いに一歩も退かなかった。
一瞬とも永遠とも思えるような時間、光の奔流と死の斬撃はぶつかり合った。白と黒。生と死。相反するものが衝突する光景は一種美しかった。そして、その光景を形作っているものの根底にあるものは、互いが火花を散らし、輝かせている魂と魂のぶつかり合いだった。
そして――その時は唐突に訪れた。
「「届けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」」
極みの光と化した陽華と明夜は己の存在の全てを懸けて、光の奔流の出力を最大まで限界突破させた。今や2人の奔流は最終決戦の時にレイゼロールに放った光の奔流と全く遜色がなかった。いや、もしかしたら超えていたかもしれない。
たった2人の想いの力が、全光導姫と守護者の力を超えるなどあり得ないが、既にいくつもの不可能を可能にしている陽華と明夜なら。人の苦しみや負の感情を知り、それでも今日会ったばかりの武器の意思すらも本気で、自身の全てを懸けて救おうとしている善性を持っているこの少女たちなら。人の善意の光を放つ2人ならば。その可能性もあり得た。
「っ!?」
光の奔流が死の斬撃を大きく押し込む。その光景にイズが驚愕する。イズも未だに限界を超え続け力を込めているが、今この瞬間、陽華と明夜の限界を超える力がイズを上回った。
「行けッ! 朝宮、月下ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
影人が2人の背を押すようにそう叫ぶ。それが影人の役目であるように。そして、その声はいつだって、いつだって陽華と明夜に力を与える最後の一押しだ。
「これがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
「私たちのぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」
最後の一押しである影人からの声を受け取った陽華と明夜は、ぐっと互いに重ね合った手を前方に押し込んだ。
「「光だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」」
そして、光の奔流は完全に死の斬撃とその斬撃に纏わりついていた死神のオーラを消し飛ばし、
「っ・・・・・・」
イズを完全に包み込んだ。
――境界が崩壊するまで残り2分。




