第1881話 真っ向勝負(2)
「朝宮さん、月下さん・・・・・・君たちはいつだって僕のちっぽけな想像を超えていくね。頑張って。君たちなら、絶対に明るい未来を勝ち取れるよ」
光司は優しく暖かな顔を浮かべそう呟いた。陽華と明夜が放つ光は見る者全てに希望を与えてくれる。光司が抱いた思いは、この場にいる多くの者が抱いていたものだった。
「イズちゃん! 次の攻撃で私たちの全部の想いをぶつけるよ! 真っ向勝負の力のぶつけ合い!」
「出来れば逃げずにイズちゃんにも応えてもらいたいわね! そう簡単に死ぬつもりはないけど、真っ向勝負で負けたら死んでも悔いはないわ!」
陽華と明夜が正面からイズに言葉をぶつける。何度も2人の想いを受けたイズには、その言葉が嘘ではないと分かっていた。
「バカですかあなた達は。敵である私がそんな提案に乗ると思っているんですか。駆け引きも何もない。バカですね。本当にバカだ」
イズは呆れ切ったような顔でそう言った。バカという言葉に敏感な明夜はムッとした顔になる。
「ちょっとバカバカって言い過ぎじゃない!? 私たちはそんなにバカじゃないわ!」
「そうだよイズちゃん! バカなのは明夜だけだよ!」
「ちょっと陽華!?」
まるで後ろから刺されたような衝撃を味わいながら、明夜が悲鳴を上げる。それはいつもの陽華と明夜のやり取りだ。しかし、この一種極限の状況でそのやり取りは酷く浮いたものに見えた。
「・・・・・・」
「あのバカ共・・・・・・状況分かってんのか・・・・・・」
「あ、あはは・・・・・・あ、朝宮さんと月下さんらしいね・・・・・・」
「うーん、ある意味大物だよねあの2人・・・・・・」
「ふふっ、本当面白い子たちね」
「ほほっ、愉快愉快」
「・・・・・・なぜ我はあんな奴らに浄化されたのだ」
「陽華ちゃん、明夜ちゃん・・・・・・」
「どんな時でも平常心。うん。あの2人は舞台に上がるのに1番必要な資質を持ってるね♪」
「はぁ、すっげえ・・・・・・いったい、どんな精神してるんだか」
「これだから光導姫は・・・・・・」
そのやり取りを見たイズは絶句し、影人は頭を抱え、光司は引き攣ったような笑いを浮かべ、暁理は唸り、シェルディアと白麗は面白いといった様子で笑い、レイゼロールは呆れを通り越しそう呟き、風音は遠い目で2人の名を呼び、ソニアは逆に感心し、壮司はいっそ尊敬の念を抱き、ダークレイはどこか軽蔑するような目を陽華と明夜に向けた。
「ふっ・・・・全く・・・・おかし、な・・・・人間・・・・たち・・・・だ・・・・」
そして、拘束され無力化されているフェルフィズも自然と小さく笑っていた。まだまだ全身には狂いそうな激痛が奔っているが、フェルフィズは既に狂っているし、長い生の中で痛みにもある程度は慣れている。ゆえに、瀕死の重傷を負いながらもフェルフィズには少し余裕の色があった。




