第1880話 真っ向勝負(1)
「フッ・・・・・・!」
イズが陽華と明夜に接近し大鎌を振るう。同時にイズは周囲に浮遊させていた2つの光刃を陽華と明夜に襲わせた。
「こんなものッ!」
「今の私たちなら!」
陽華と明夜は大鎌を回避すると同時に、光刃を拳と杖の刃で迎撃した。結果、光刃は砕かれ、あるいは切断された。本来ならばイズの兵装である光刃にも概念無力化と超再生の力が備わっているはずだが、やはりなぜか光刃も再生しなかった。光刃は残骸となり地面に落下した。
「やはり再生しない・・・・・・全く訳が分かりませんね。アオンゼウの目を以てしても何も分からない。どういう絡繰ですか?」
「さあ!? 私たちにも全く分からないよ!」
「よく分からないけど、気合いとか愛とか勇気とかそんなものじゃないかしら!?」
至近距離で大鎌を振い続けるイズの攻撃を避けながら、陽華と明夜はそう答えた。当たれば問答無用で死んでしまう死の斬撃の檻の中にいながらも、2人の顔に恐怖の色はない。あるのは、イズとの対話への想いだけだった。
「・・・・・・嘘ではないようですね。自身でも分からない力ですか。・・・・・・ふっ、私を本気で救おうとしている事といい、あなた達は面白いですね」
「「っ!?」」
イズが小さく笑みを浮かべる。先ほどはイズが俯いていたため、イズの笑みを初めて見た陽華と明夜は驚いたような顔を浮かべた。そして、すぐに嬉しそうな顔になった。
「イズちゃんの笑顔初めて見たよ! 素敵な笑顔だね!」
「いい感じね! その調子で早く私たちに救われてちょうだい!」
「都合のいい事を言わないでください。私はまだあなた達に心を許したわけではありません」
陽華と明夜の言葉にイズは少しムッとした顔になった。まだまだ表情は硬いが、それでも最初よりは明らかに顔に様々な感情の色が出てきていた。
「じゃあ、すぐにでも許してもらうね! もう残りの時間も本当にないだろうし!」
イズの大鎌による攻撃を掻い潜りながら、陽華は蹴りを放った。輝く光を纏うその蹴りをイズは左腕で受け止めた。タイミング的にも避けられず、障壁も意味がないとなれば受け止める以外にイズに選択肢はなかった。攻撃を受け止めた事により、幾度目ともなる想いがイズの中に流れ込む。
「そうね! という事でイズちゃん! そろそろ対話は終わりにしましょう!」
「ぐっ・・・・・・」
明夜も杖の刃を振るうと同時に、水と氷の腕を創造した。イズは明夜の杖の刃こそ大鎌の持ち手で受け止める事に成功したが、水と氷の腕の拳による打撃は受け止められず、両肩に打撃を受けた。両肩に装備されていた機械が壊れ、明夜と陽華の想いが再びイズの内に流入する。
「・・・・・・どうやったらただの攻撃であの障壁が壊せて、イズの概念無力化と超再生の力を持つ体にダメージを与えられるんだよ。つくづく主人公だなあいつらは・・・・・・」
その光景を見ていた影人はどこか呆れたような顔でそう呟いた。自分で言うのもあれだが、色々と規格外な影人、シェルディアや白麗たちですら本当の意味でイズの体にダメージを与える事は出来なかったというのに、陽華と明夜は覚醒してよく分からない理屈で不可能を可能にした。そんなご都合主義を現実に引き起こす。それは間違いなく、物語の主人公の特権のような力だ。
『多分、光輝天臨で極限以上に高められた光の力とか浄化の力が関係してんだろうが・・・・・・具体的にどういう理屈なのかは分からねえな。お前も大概おかしいが、あいつらもおかしな奴らだぜ』
光の女神であるソレイユの神力であるイヴですら、陽華と明夜に対してそんな評価を下した。




