第1879話 最終局面、忌神との決戦2(4)
「光輝の炎よ! 激しく燃え上がれ!」
「光輝の水よ! 優しく包み込め!」
陽華と明夜がそう声を上げると、光り輝く炎と水がイズに向かって迫った。イズはその炎と水を大鎌で切り裂いた。その瞬間、陽華と明夜がイズに接近し拳と杖の刃による攻撃を繰り出す。
「っ・・・・・・」
イズは咄嗟に障壁を展開した。陽華の拳と明夜の杖の刃が、概念無力化と超再生の力を持った障壁に阻まれる。いくら光輝天臨してパワーアップしたといっても、この障壁を破る事は今の陽華と明夜でも不可能に思われた。事実、2人の攻撃は何度もこの障壁に阻まれていた。
「出たね絶対防御バリア! だけどッ!」
「今までは破れなかったけど、この世に絶対はないのよ! 1回でダメなら2回! 2回でダメなら3回! 3回でダメならそれ以上! やり続ければッ!」
陽華は拳を、明夜は杖の刃を障壁に押し込み続けた。2人は想いを高め続けた。イズを必ず救うという思いを。その思いは紛れもなく正の感情だ。その想いは2人の力を引き上げる。どこまでも、どこまでも。限界を超えて。そして、影人が見守ってくれているという事実。その2つの要因が、陽華と明夜が纏う光を更に輝かせる。
「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」」
そしてその結果、奇跡は起きた。不可侵のはずの障壁にどういうわけかピシリとヒビが入る。ヒビはどんどん増え細かくなり――
――障壁は粉々に砕かれた。
「なっ・・・・・・」
そのあり得ない光景にイズが大きく目を見開く。陽華と明夜の攻撃はそのままイズの体に向かった。障壁が突破されたという事実に呆然としていたイズは、その攻撃をモロに受けた。
「がっ・・・・・・」
次の瞬間、凄まじい打撃と刺突がイズの体に刻まれた。同時に、イズの内側に陽華と明夜の想いが流れ込む。その想いは前に流れ込んできた想いよりも遥かに強かった。イズは後方へと吹き飛ばされた。
「どう!? イズちゃん! 想いの力に不可能はないんだよ!」
「そうよ。だから、世界も救ってイズちゃんも救う。これも不可能じゃないわ!」
陽華と明夜が明るい顔でそんな言葉を放つ。2人も境界が崩壊するまでの時間は本当に少ないという事は分かっている。だが、陽華と明夜も影人と同じく、この状況で強がりでも何でもない明るい顔を浮かべられる。どんな状況でも決して諦めない。その精神は本当に、本当に稀有なものだった。そして、まごう事なき2人の強さだった。
(・・・・・・死の力でも何でもない、ただの人の想いを乗せただけの攻撃でアオンゼウの障壁が破られた。それに、この体も再生が始まらない。完全にあり得ない状況だ。おかしい。訳がわからない)
イズは損傷した自身の体を見下ろしながらそんな事を思った。だが、イズの中に理不尽感はなかった。あるのはただ純粋なる疑問。不可能を可能にしてみせた、陽華と明夜に対する興味。そして、体の奥から湧き上がるようなワクワクとした未知の気持ち。
「なるほど・・・・・・これが面白いといった感情ですか」
顔を俯かせながら、小さく、本当に小さくだが、イズの口角が上がる。意外だった。まさか無機質なはずの自分にこんな感情があるなんて。知りたい。もっと自分の事を。色々な感情を。感情を引き起こす様々な事象を。
「私にも心があった・・・・・・製作者や帰城影人、あなた達が言っていた事は正しかった。分かっていなかったのは、私だけだった。・・・・・・ふふっ、滑稽ですね。この思いが自嘲ですか」
先ほどよりも口角が上がった気がした。イズは顔を上げ自分に心というものがあると気づかせてくれた相手を、陽華と明夜を見つめた。
「もっと、もっと教えてください。私に、私というものを!」
イズはどこか吹っ切れたような顔で大鎌を構えた。そして、2人に向かって一歩を刻んだ。
――境界が崩壊するまで残り約10分。




