第1875話 最終局面、忌神との決戦1(4)
(さてさて、何とか均衡している状態に見せかけていますが・・・・・・状況は非常にマズいですね)
暁理、ソニア、風音、壮司、光司、ダークレイ、白麗と対峙していたフェルフィズは内心でそう呟いた。喜劇と悲劇の仮面人形や神器があるから、7対1という圧倒的に不利な状況でも負けてはいないが、フェルフィズはいま薄氷の上にいるようなものだ。つまり、いつ負けるかも分からない。
(加えて、既に他の亀裂は安定させられた。つまりは、複製体を無力化する手段を持つ者がそれだけ存在するということ。その者や他の戦力もこの場所に向かっている。その者たちがこの場所に来た瞬間、私たちは負けと考えるべきでしょうね)
イズと同じ体を持つ複製体が無力化されたという事は、不滅のイズも滅する事が可能という事だ。境界崩壊までの時間に余裕がない今、影人たちは亀裂を安定させるための障害となるイズを排除する手段を選択する可能性が高い。そして、イズを失った瞬間、フェルフィズの敗北は確定する。
「結局は時間が勝負を決める・・・・・・という事ですね」
まさに運任せだ。フェルフィズがそんな事を思った瞬間、フェルフィズの左側部からガキィンと凄まじい音が響いた。
「あら、目には見えない何かがあるわね。なるほど。白麗たちが手間取っていたのはこれが理由ね」
フェルフィズが音の聞こえた方に目を向けると、そこにはシェルディアがいた。今の音はどうやらシェルディアが攻撃した音だったようだ。
「真祖シェルディア・・・・・・いいんですか。イズの相手をしなくても。あの光導姫たちの光の力は凄まじいですが、彼女たちだけではイズの相手は荷が重いと思います」
「ご心配ありがとう。でも大丈夫よ。あの子たちは強い。それに影人もいる。だけど、大鎌の能力だけは怖いからそれは封じさせてもらうわ」
シェルディアは真紅の瞳を白麗に向けこう言った。
「白麗。フェルフィズの相手は私がするから、あなたは目をイズに向けてちょうだい。大鎌の能力が発動しそうになったら頼むわ」
「あい分かった」
白麗は素直に頷くと意識をイズの方へと向けた。これで、先ほどまでと同じように白麗はいつでも独自妖術「流転の逆」を使う事が出来る。それは同時に影人の負担を減らす事が出来るという事でもあった。
「やらせませんよ」
だが、フェルフィズはそれを阻止しようと、左手に握っていた神器――青い剣を振るおうとした。フェルフィズの右手の赤い剣は、空間を切り裂く事で空間を断絶する効果を持つ。フェルフィズに攻撃が届かなかったのは、フェルフィズが赤い剣で自身の周囲の空間を断絶していたからだ。空間が断然しているため攻撃はフェルフィズに届く事はなかった。
対して、フェルフィズが今振るおうとしている青い剣は、空間を拡張する能力を有している。つまり、振るえば斬撃が遥か先の空間にまで届く。要は、誰でも飛ぶ斬撃が放てる神器だった。
「『フェルフィズは動けない』♪」
「っ!?」
だが、そんな声が響いた瞬間フェルフィズの体は石のように固まった。ピクリとも体を動かせない。何だ。いったい何が起きた。フェルフィズが戸惑いながらも声の聞こえた方向に目を――目は動かす事が出来た――向けた。
「こっちもやらせないよ♪」
(っ、光臨ですか・・・・・・!)
そこにいたのはソニアだった。だが、先ほどとは姿が違っている。光導姫の姿の変化が何を意味するのを知っていたフェルフィズは、即座にその可能性に辿り着いた。
「ええ。私たちは私たちの義務を果たします! 第1式札から第20式札、寄りて全てを浄化する場となる!」
そして、光臨しているのはソニアだけではなかった。光臨した風音は20の式札をフェルフィズの周囲に張り巡らせると、光のフィールドを設置した。そのフィールドは全ての状態を元の状態へと浄化するもの。結果、フェルフィズの周囲の断絶された空間は元に戻った。
「やっとあんたを殴れるわ・・・・・・! 闇技発動、ダークブレット・セカンド!」
「風の旅人――剣技、風撃の一!」
そして、闇臨したダークレイと暁理が神速の速度でフェルフィズへと接近する。ダークレイは濃密な闇を纏う拳を、暁理は風を纏う剣をフェルフィズへと放つ。
「っ、仮面人形よ!」
フェルフィズは咄嗟に喜劇と悲劇の仮面人形に自分の身を守らせようとした。仮面人形はまだ壊されてはいなかったからだ。
「ふふっ、無駄よ」
だが、仮面人形は来なかった。シェルディアが仮面人形を粉々に破壊していたからだ。仮面人形には超再生の力があるため、破壊してもすぐに修復されていくが、シェルディアはそれを上回る速度で仮面人形を破壊していた。
「がはっ!?」
結果、ダークレイの拳と暁理の斬撃をフェルフィズは受けてしまった。内臓がひしゃげ骨が砕け、深い切り傷が刻まれる。フェルフィズは両手に持っていた赤と青の剣を思わず手放してしまった。
「まだまだだぜ!」
「これでッ!」
更に壮司と光司もダークレイと暁理の後に続き、大鎌と剣による攻撃を行った。深い斬撃が更にフェルフィズの体に刻まれ、多量の赤い血がフェルフィズの服を濡らした。
「ぐはっ・・・・・・」
フェルフィズは膝から崩れ落ちた。不死なので、この攻撃でフェルフィズが死ぬ事はない。だが、神力の使用が出来ないフェルフィズには、すぐさま傷を癒す様な事は出来なかった。傷を癒す神器も、ポーチの中ですぐには取り出せなかった。
そして、
「――来て早々にいい光景が見られたな。無様なものだな・・・・・・フェルフィズ」
そのタイミングで新たな声が響いた。フェルフィズが苦痛に満ちた顔で声の主に目を動かす。
「ああ・・・・・・ここで・・・・・・あなた、ですか・・・・・・」
声の主は長い白髪にアイスブルーの瞳が特徴で、西洋風の喪服を纏った女性だった。フェルフィズに向けられる目はその瞳の色と同じく冷たいものだ。
「レイゼ・・・・・・ロール・・・・・・」
「ああ。お前を終わらせに来た。覚悟しろ、忌神よ」
フェルフィズが女の名を呼ぶ。レイゼロールは冷め切った声音でフェルフィズにそう言った。




