第1871話 イズの心(5)
「っ・・・・・・」
白麗の意識が一瞬ナイフの方に向かう。白麗はナイフを目に映し認識してしまった。結果、流転の逆が発動してしまいナイフはフェルフィズの手元に戻った。
「あなたのその術は対象を目で認識する事で発動する。ならば、術が発動するタイミングであなたの認識を逸らせばいい。ただそれだけの事です」
「貴様・・・・・・」
白麗がフェルフィズを睨んだ。その間に流転の逆で状態を5秒前に戻されなかったフェルフィズの大鎌は、絶対不可避の死の一撃と放たれた。
「やらせるかッ!」
しかし、影人は既に陽華と明夜に対し『世界端現』の力を使用していた。陽華と明夜に死を弾く影闇が纏われる。結果、2人は斬撃こそ受けてしまったが死ぬ事はなかった。
「ぐっ・・・・・・」
「くっ・・・・・・」
だが、斬撃は深かった。陽華と明夜は光輝天臨の神々しい衣装を血に染め、苦悶の顔を浮かべた。
「朝宮、月下!」
影人は2人に回復の力を使おうとした。だが、その前にイズが魔法陣から大量の機械の剣、機械人形、端末装置を呼び出し、無差別に影人たちに攻撃を仕掛けてきた。
「っ、邪魔だ!」
影人は一旦回復の力の行使を諦め、『終焉』の闇で機械の剣や端末装置、機械人形を無力化した。その間にイズは、損傷し弱っている陽華と明夜との距離を詰め、2人に大鎌を振るおうとした。
「ダメよ。この子たちも私のお気に入りなんだから」
だが、真祖化したシェルディアが大鎌の持ち手を掴み、陽華と明夜への攻撃を阻止した。シェルディアはそのままイズの腹部を蹴り抜いた。
「ぐっ、吸血鬼・・・・・・邪魔を・・・・・・」
蹴り飛ばされたイズは翼とブースターを使って慣性を無理やり相殺した。凄まじい負荷が掛かったが、アオンゼウの体ならば損傷はない。例えあったとしてもすぐさま修復される。
「大丈夫かしら陽華、明夜?」
シェルディアは陽華と明夜に触れ自身の生命力を流し込み、2人の傷を癒した。
「う、うん。ありがとうシェルディアちゃん」
「本当に助かったわ」
「いいのよ。それより、気張れる? 時間はもう本当に残されていない。イズを殺す事の出来る手段を持つ者がこの場に合流すれば、悪いけど私はその手段、イズを殺す手段を取るわ。あなた達には悪いけど、私にとって今1番大切なのは、影人と過ごす何気ない日常だから」
シェルディアは自身の本音を述べながら、陽華と明夜にそう問うた。2つの世界の破滅的な混乱か、ただの武器の意思。両者を天秤にかけた場合、シェルディアは何の迷いもなく後者を、イズを切り捨てる。当然だ。シェルディアはイズに対して何の思い入れもない。むしろ、思い入れもないのに本気でイズを救おうとしている陽華と明夜の方が、異常と言えば異常だった。
「っ、うん! 私たちは最後の最後まで諦めないよ! 絶対に、絶対にイズちゃんを救うんだッ!」
「倒して終わりなんて目覚めが悪すぎるもの! 世界もイズちゃんも両方救うわ! 何が何でも絶対に!」
だが、陽華と明夜は即座にそう答えた。その答えを聞いたシェルディアはフッと笑った。
「それでこそよ。頑張って陽華、明夜。私も、出来ればあなた達が切り開く明るい終わりを見たいわ」
「任せて! 絶対にしてみせるよ! 全部を掴み取るハッピーエンドに!」
「そうよ! ハッピーエンド以外認めないんだから!」
心に灯る不屈と希望の正の感情が、陽華と明夜の力を強める。陽華は右の拳を、明夜は左の拳を互いに相手の拳に触れさせた。
「やるよ明夜! これが最後! 絶対にイズちゃんを救う!」
「ええ陽華! 救うわよ! あの子を!」
誓いを交わした陽華と明夜がその身に光を纏う。それは人の想いの光。陽華と明夜の、イズを必ず救うという心の光だった。
――第6の亀裂を巡る戦い、忌神との決戦は最終局面へと至った。




