第1870話 イズの心(4)
「本格的に時間が少なくなって来たようね。もう一刻の猶予すらないわ。影人、あなたなら分かっていると思うけど・・・・・・」
「・・・・・・ああ。イズを救う前に境界が崩壊したら終わりだ。あいつらには悪いが、そろそろ決めなきゃならない。・・・・・・イズを殺すかどうかを」
だが、問題は肝心のイズを殺す手段がこの場にはない事だ。影人の全てを終わらせる『終焉』も、魂に死を与える『世界』もイズには効かない。影人が冷たさの中に少しの苦悩を伴った声で言葉を述べた時だった。影人の中にソレイユの声が響いた。
『影人!』
(っ、ソレイユか。どうした。時間がないって事なら分かってるが・・・・・・それとも、他の亀裂で動きがあったか?)
フェルフィズとイズに気取られぬように、影人は内心でソレイユにそう聞き返した。
『はい! 朗報です! 各地の5つの亀裂が安定しました! 残るはあなた達のいる亀裂、日本の亀裂だけです! 今、レールや各地で戦っていた者たちがあなた達のいる場所に向かっています! ついでに、全世界で暴れていた機械人形たちもその数は後少しといったところまで減らせています! だから、後はあなた達がいる亀裂さえ安定させれば、私たちの勝利です! ただ急いでください! 今シトュウ様から念話がありましたが、時間はもう本当に残されていません!』
「っ、そうか。分かった」
ソレイユからの報告を聞いた影人の口元がほんの少し緩んだ。確かに朗報だ。絶望の中にあってもまだ希望はなくなってはいない。
「聞けお前ら! ここ以外の亀裂は全部安定した! 後はここだけだ!」
「「「「「「「「っ!?」」」」」」」」
影人はこの場にいる味方たち全員に聞こえるように、大声でそう言った。影人の言葉を聞いた陽華、明夜、暁理、ソニア、風音、光司、壮司、ダークレイは影人の言葉に顔色を変える。シェルディアと白麗だけは特に驚いた様子もなく「あら、なら頑張らないとね」、「そうじゃの。シスあたりにバカにされても嫌じゃしの」とそんな反応を示した。
「援軍も来るが時間はない! だから、朝宮に月下! お前らも急げ! 残りの時間的に、援軍が来たらイズを滅する手段を取らなきゃならない! それが嫌なら無理やりにでもイズの奴を救え!」
「っ、うん!」
「分かったわ!」
影人からそう言われた陽華と明夜は頷くと、イズに視線を向けた。
「イズちゃん! 私たちはあなたを失いたくない! だから応えて! あなた自身の本当の心に!」
「イズちゃん、あなたはもう分かっているはずよ! 自分に心があるって! あなたの心は、本当に破滅を望んでいるの!?」
陽華と明夜はイズに言葉を掛け続ける。イズは2人の言葉を振り払うように首を横に振った。
「黙れ黙れ黙れ! 私にそんなもの! 例え、例えあったとしても私は製作者の道具だ! 道具に心など不要! 私は、私の存在意義は製作者に従う事しかない! 私を惑わすな光導姫!」
イズは何度目にかなる行為、すなわち自身の本体である大鎌に生命力を流し込んだ。イズが認識するものは変わらない。目障りな2人の光導姫、陽華と明夜だ。大鎌の刃が怪しく輝く。イズは殺す対象として、陽華と明夜までの距離を意識し、大鎌を振るおうとする。
「だから無駄じゃ。学ばん奴じゃの」
白麗も何度目にかなる行為、独自妖術「流転の逆」を使用しようとした。白麗の白銀の瞳に複雑な魔法陣が刻まれる。後は対象を認識すればいいだけだ。それで対象は5秒前の状態に戻る。
「いえいえ、しっかりと学んでいますとも」
白麗の言葉にフッと笑ったのはフェルフィズだった。フェルフィズは白麗に向かって投擲すれば加速するナイフ型の神器を放った。




