第1869話 イズの心(3)
「・・・・・・分からない。私は、私はいったい・・・・・・」
イズはふらりと立ち上がった。イズの顔には初めて見える色が、苦悩の色があった。
「イズちゃんはイズちゃんだよ。でも、自分が何なのかなんて分かる人は少ないと思う。だけど、それは何も悪い事じゃないよ」
「これから知っていけばいいの。そうすれば、きっと分かるわ」
陽華と明夜は優しい顔でスッとイズの方に向かって手を伸ばした。2人とイズの距離は離れているため、もしイズが手を伸ばしてもイズは2人の手を掴む事は出来ない。それでも2人はイズに手を伸ばす。最初と同じように。それは陽華と明夜の考えが、イズを救うという考えが変わっていないという事の証明だった。
「だから、これから一緒に知っていこう、イズちゃん。あなたの事を。ううん。イズちゃん自身の事だけじゃない。嬉しいこと、楽しいこと、悲しいこと、腹立たしいこと・・・・・・色々な事を知っていこう。大丈夫。もし分からなかったり、戸惑ったり、怖かったりしても私たちが支えるから」
「困っている時に助けるのが友達よ。イズちゃん、私たちは何度でも言うわ。私たちはあなたを救いたい。あなたと友達になりたい」
どこまでも暖かで優しく、寄り添うような陽華と明夜の言葉。その言葉を、いや言葉に込められた2人の想い受けたイズは、少しの間放心したように陽華と明夜を見つめた。
「・・・・・・私は・・・・・・私は・・・・・・」
イズは内から湧き上がって来るものが、今までの中で最大限に高まっているのを感じた。イズは気づけば無意識に、無意識にその右手を伸ばし――
――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――
しかし、イズが右手を伸ばす前に世界が大きく揺れた。
「うわっ!?」
「地震!?」
「っ、こいつは・・・・・・!?」
陽華、明夜、影人が驚いたように声を上げる。3人以外の者たちも激しい揺れにその顔色を変えた。
「くくっ、最終段階へ移行したというところですね。境界が崩壊するまで、あとほんの少しだ」
その揺れに対し、ただ1人笑っていたのはフェルフィズだった。揺れと同時に加速度的に広がっていく空間のヒビ。いよいよ、2つの世界の境界が完全に崩れ去ろうとしていた。それはフェルフィズの勝利が目の前まで迫っているという事でもあった。
「いつまで余裕のつもりかしら?」
「てめえはさっさと死ねよ」
そんなフェルフィズに対し、真祖化したシェルディアが喜劇と悲劇の仮面人形を粉微塵に切り刻み、一緒で距離を詰める。影人も神速の速度でフェルフィズに距離を詰めると、終焉の闇を纏う蹴りをフェルフィズに放った。
「っ、やらせません・・・・・・!」
だが、その前にイズが神速の速度でフェルフィズの元に駆け付けた。イズは障壁を展開しフェルフィズを守った。シェルディアは影纏う爪撃を放ったが、障壁に阻まれる。『終焉』を纏う影人の蹴りは障壁を突破する事に成功したが(死の概念が適応されないのはあくまでイズの体だけ)、影人の蹴りはイズが直接左腕で受け止めた。イズはシェルディアと影人を追い払うように大鎌を振るう。2人は一旦後方に飛んだ。
「おっと、危ないところでした。ありがとうございます、イズ」
「いえ・・・・・・」
感謝の言葉を述べるフェルフィズに、イズはただそう言葉を返した。




