第1866話 守るべきもの、救うべきもの(5)
「・・・・・・簡単に言いますね。さすがは化け物だ」
その光景を見ていたフェルフィズが少し不快げに顔を歪める。存在の状態を強制的に数秒前に戻す。一種、世界に対する究極の干渉を行なっているというのに、白麗は何でもないようにそれをやってみせた。
「余裕だな忌神さん!」
「はあッ!」
「斬るよ!」
「ムカつくのよ、あんたの顔」
フェルフィズがイズの方に視線を向けていると、壮司、光司、暁理、ダークレイが接近しフェルフィズに攻撃を仕掛けてきた。4人は『加速』の力を施されている。その速度はフェルフィズが反応出来ぬ速度。
「ガアッ!」
だが、突如としてフェルフィズの影から闇色の獣が飛び出し、4人の攻撃を弾いた。闇色の獣は1体だけでなく、フェルフィズの影から新たに5体這い出てきた。フェルフィズが異世界で捕獲していた影に住まう獣だ。
「まあ、私を狙って来ますよね。確かに、私の戦闘能力はからっきしですからね。ですが、2つの世界に対して争いを挑むのです。出来るだけの準備はしていますよ」
「雑魚が調子に乗ってるんじゃないわよ・・・・・・!」
ダークレイは両手のグローブを黒い杖へと変化させた。そして、杖を振るった。
「闇技発動、ダークブレイザー!」
「第1式札から第10式札、光の矢と化す!」
「攻撃の歌!」
ダークレイが10条ほどの闇の光線を放ち、風音も遠くからダークレイに合わせるように10条の光線を、ソニアも不可視の衝撃波を発生させる歌を歌った。闇と光の光線が、不可視の衝撃がフェルフィズへと襲い掛かる。
「来なさい、喜劇と悲劇の仮面人形よ」
しかし、フェルフィズは落ち着いた様子でパチンと右手を鳴らした。
「・・・・・・」
すると、フェルフィズの背後の空間が歪み1体の人形が出現した。2メートルほどの高さに黒い体。顔には喜劇の仮面の半分と悲劇の仮面の半分が合わさったような仮面が装着されていた。その人形はフェルフィズを守るように立ち塞がると、光と闇の光線と不可視の衝撃をその身で受け止めた。人形はボロボロになったが、どういうわけかすぐに傷が修復されていった。それはイズや写し身の超再生の力が起こす現象と酷似していた。
「「「っ・・・・・・!?」」」
「アオンゼウの写し身を製作する過程で、アオンゼウの器に関する技術はいくつか盗めました。この喜劇と悲劇の仮面人形には、その技術をいくつか施してあります。さあ、行きなさい私の人形よ」
その光景を見たダークレイ、ソニア、風音が驚いた顔になる。フェルフィズは軽くそう説明すると、人形に命令を下した。仮面人形は右手前腕部を開きそこから黒い光刃を発生させると、ダークレイたちに向かって突撃を掛けた。
「さてさて、私も一応世界の敵らしく戦いますかね」
フェルフィズはポーチから今自分が所持している人形を全て放出した。その数はざっと300体ほど。一応、フェルフィズが改良して全ての人形に超再生の力が付与されている。『終焉』に触れられれば意味はないが、光導姫や守護者相手の時間稼ぎにはなるだろう。フェルフィズは続けて、ポーチから戦闘に使える神器をいくつか取り出した。瞬間、ピシリと空間に亀裂が奔る。その光景を見たフェルフィズは小さく口角を上げた。
(終局の時間まであと少しといったところですかね。30分か1時間か・・・・・・いずれにせよ、終わりは近い)
フェルフィズは恍惚と狂気が入り混じった顔になると、こう呟いた。
「このまま境界が完全に崩壊するか、はたまたイズが救われ、境界の崩壊は食い止められるのか・・・・・・ああ、未来はどう転ぶのでしょうね。楽しみだ」
そして、忌神はその薄い灰色の瞳に純粋な好奇の明かりを灯した。
――フェルフィズのその呟きは、どのような未来になっても構わない、という意味にも聞こえた。




