第1861話 亀裂を巡る戦い、決着5(5)
「ふっ、これで使えるわ。私の新たな魔法が。感謝するわ。あなたがいなかったら、私はまだまだこの魔法を使う事は出来なかった」
『いえ。しかし・・・・・・なるほど。確かに、この力なら写し身を消滅させる事が出来ますね』
キベリアが自身と同化しているヘシュナに感謝の言葉を述べる。ヘシュナはキベリアと同化しているので、キベリアの新たな魔法がどのようなものなのか理解していた。
『そして、あなたは才ある者ですね。私が力を貸しているとはいえ、時の力を自身の理論だけで扱えるようにするのですから。普通は不可能です』
「ありがと。私、これでも天才なのよ」
キベリアは嬉しそうにニヤリと笑った。そして、周囲の者たちにこう言った。
「待たせたわねあんた達。私が見せてあげるわ。本当の魔法ってものを」
「はっ、期待外れだったら殺すからな。一応保険だ。くれてやる。我が力よ。この者の力を全て解放せよ」
菲はキベリアに黒い短い鞭を向けた。すると、鞭から光が伸びキベリアの胸部に触れた。次の瞬間、キベリアの体から凄まじい力が湧き上がってきた。
「っ、あんた・・・・・・」
「1回私の光臨を見てるあんたなら私が何をしたかは分かるだろ。さっさとあいつをぶっ倒せよ闇人」
「・・・・・・ふん。言ってくれるわね。まあ、任せなさいよ光導姫」
菲から能力の大幅な上昇の力を受けたキベリアは小さく笑った。そして、こう言葉を唱えた。
「11の時間、我が時を加速する」
キベリアの背後に一瞬時計のようなものが現れた。時計のようなものは針を凄まじく速く回転させると虚空に消えた。
「さて、本当なら少しはいたぶりたいけど・・・・・・時間もあまりないようだし、サクッと倒してあげるわ」
キベリアが一歩を刻む。すると、ギュンとキベリアが一瞬にして写し身の背後に移動した。
「うおっ、キベリアさんいつの間に?」
「っ、全く反応出来なかった・・・・・・?」
「何だ。何か不自然さを感じたが・・・・・・」
「・・・・・・?」
写し身を迎撃していたゾルダート、イヴァン、葬武が驚いたような顔になる。写し身も突如として背後に生じた気配に振り返る。
「・・・・・・!」
写し身がキベリアに向かって右手の実体剣と光刃を振るう。しかし、キベリアは再びギュンと加速しその攻撃を避け、写し身の近くに現れた。キベリアのその速さは影人やシェルディアと同レベル、もしくはそれ以上。だが、葬武が言ったようにその速さはどこか不自然さを感じさせた。まるで、1人だけ違う時を生きているように。
「今の私は文字通り無敵よ。誰も私を捉えられない。そして、終わりよ」
キベリアがスッと右手で写し身に触れた。
「11の時間、この者の時を巻き戻す」
キベリアが魔法を行使する。すると、今度は写し身の背後に時計のようなものが出現した。その時計のようなものは、逆方向に凄まじい速さで回り始めた。
「・・・・・・!?」
「あんたが存在する前まであんたの時間を巻き戻す。そうすると、どうなると思う? 簡単よ。あんたは消滅する」
キベリアは写し身の時間を戻し続けた。キベリアの魔法は時という概念を事象に落とし込んだもの。ゆえに、概念無力化の力は受けない。再生の力も、あくまで体の損傷にだけ適用されるものだ。写し身にキベリアのこの魔法を防ぐ手段はない。
「・・・・・・!」
写し身は自身の時を戻されながらも、何とか反撃を試みようとした。だが、巻き戻される時の中で写し身は満足に体を動かす事は出来なかった。
そして、写し身は唐突にその場から消滅した。
「・・・・・・勝ちね。私の、いや私たちの」
『はい。お疲れ様です』
「いやー、キベリアさんやべえな。今ならシェルディアさんとかにも勝つんじゃねえか?」
「ふぅー、やっと終わったか。ったく、絶対ボーナス貰ってやるぜ」
「光と闇が協力し勝利する。まあ、こういうのもたまにはいいですわね」
「はあー、今回も死ぬかと思った」
「・・・・・・まだまだ不甲斐ないな俺も」
キベリア、キベリアとの同化を解除したヘシュナ、ゾルダート、菲、メリー、イヴァン、葬武がそれぞれの感想を述べる。そして、ソレイユから符を預かっていたメリーは、亀裂に符を貼った。
――第5の亀裂、アメリカ。勝者、『貴人』メリー・クアトルブ、『軍師』胡・菲、『凍士』イヴァン・ビュルヴァジエン、『天虎』練・葬武、『強欲』のゾルダート、『魔女』のキベリア、『精霊王』ヘシュナ。こうして第5の亀裂を巡る戦いは終了した。
――残る亀裂は第6の亀裂、日本のみ。この世界とあちら側の世界の命運は、第6の亀裂を巡る戦いに託された。




