第186話 反撃するは我に有り(2)
「――そうですか。報告ありがとうございました。光導姫『巫女』」
「いえ・・・・・・・・それでソレイユ様、例の件はどうなったのでしょうか?」
「すみません『巫女』。その話はまたに・・・・・・・・私もこれからやる事がありまして。本当にごめんなさい」
「っ・・・・・そうでしたか。それは失礼しました。ではまたお伺い致します。それでは、今日はこれで失礼します」
「ええ、また。では地上にお送りしますね」
『巫女』の報告と短い会話を終え、ソレイユは風音を地上へと送り返した。風音が言っていた「例の件」とは、風音が遭遇した『あちら側の者』シェルディアの事についてだ。風音は家の事情で『あちら側の者』の事を知っているため、シェルディアが東京に出現したことが気になるのだろう。
(とは言っても、シェルディアがまだ東京にいるかどうかもわからないですし、もし居たとしても私には彼女の気配を探る事は出来ませんが・・・・・・・・)
あれは自分と同じ一種の超常の存在だ。ソレイユとてシェルディアに関しては多くは知らない。
(・・・・・今は考えてもしょうがないですね。キベリアの気配は・・・・・・・・・完全に消失。という事は自分たちの本拠地へと撤退したということですね)
思考を切り替え、ソレイユはキベリアの事について考えた。風音の報告では、キベリアは撤退したとの事だったが、戦いのあった場所のすぐ近くにキベリアの気配をソレイユは依然として感じていた。もしや弱体化による転移の失敗かとソレイユは考え、風音との会話の後に光導姫を派遣しようと思っていたのだが、どうやらそれはソレイユの思い違いだったようだ。現にもうキベリアの気配は消えている。
(少々引っかかる気がしないでもないですが・・・・・)
ソレイユが思考の海に沈んでいると、どこからか声が聞こえてきた。
「・・・・・・・・・・おい。そろそろいいか?」
「はっ! ・・・・・・・・・ ど、どうぞ!」
ソレイユはぎこちない笑みを浮かべ、その声のした方向――つまり自分の後方――を振り向いた。すると光の障子がそっと開き、中から制服姿の影人が姿を現した。
「・・・・・・・まさかとは思うがお前、俺の事忘れてやがったな?」
「そそそそんなことありませんよ!? だって私神ですし!! 忘れ事なんてするはずないじゃないですか!」
前髪の下から恐らくジト目で自分を見てくる影人に、ソレイユは冷や汗全開でそう弁明した。あきらかに嘘っぽい感じだ。なんなら目が泳ぎまくっている。
「まあ、お前の頭の残念さは置いておくとして・・・・・・・・」
「いや置いておかないで下さいよ!?」
「ソレイユ、お前ちゃんと片付けくらい――」
「わああああああああああああああああっ!? 聞こえません聞こえません聞こえません!!」
影人が呆れたように、自分が隠れていた障子の中に視線を送っていると、ソレイユが半分涙目になりながらそう叫んだ。さっきまでのキリリとした女神はどこへやら。目の前にいたのはまるで駄々っ子だった。




