第1857話 亀裂を巡る戦い、決着5(1)
「っ・・・・・・? おいおい、何だ・・・・・・?」
第5の亀裂、アメリカ。メリー、菲、イヴァン、葬武、ゾルダート、キベリアVS魔機神の写し身4号の戦い。メリー、イヴァン、葬武の3人を癒したぼんやりと光った少女のようなモノ――ヘシュナを見たゾルダートは、その顔色を疑問の色に染めた。
「嘘、なにその高密度の自然エネルギー・・・・・・概念そのものの具象化じゃない・・・・・・もしかして、精霊・・・・・・?」
一方、キベリアは、ヘシュナを見て信じられないといった様子になる。キベリアに正体を見破るような目はない。だが、キベリアは魔法を扱う者として、ヘシュナの気配がどのようなものか理解していた。ゆえに、キベリアはヘシュナの正体に誰よりも早く辿り着いた。
『はい。あなたの言う通りです。私は精霊。ただし、この世界ではなく異なる世界の精霊ですが』
ヘシュナはキベリアの方に顔――正確には顔のような部位だが――を向けるとそう答えた。
「異世界の精霊だ・・・・・・? おいおい、私らも大概ファンタジーだが、どんなファンタジーだよ・・・・」
ヘシュナの言葉を聞いた菲は呆れ切ったような、信じられないような、なんとも言えない顔を浮かべた。菲もイズやフェルフィズ、異世界についての情報は知っているので、異世界から精霊の助っ人が来たという事実は理解は出来る。だが、実際としてはまだ理性が納得しきってはいなかった。
「なるほど。感謝いたしますわ。助けていただきありがとうございます。ええと・・・・・・」
『ヘシュナ。私の世界で私はそう呼ばれています』
「・・・・・・!」
ヘシュナがメリーに自分の名前を教えた直後、写し身は両腕の剣を砲身へと変えた。そして、上空の端末装置を自分の周囲に移動させる。写し身は両腕の砲身と端末装置をヘシュナに向けた。次の瞬間、砲身から概念をも無力化する破滅の光と、同じく概念を無力化する端末装置のレーザーが放たれた。
「っ、ヘシュナさん!」
メリーが危険を知らせるためにヘシュナの名を呼ぶ。
『問題ありません』
ヘシュナはしかしその場から動かなかった。次の瞬間、フッとヘシュナの姿が掻き消える。破滅の光とレーザーはただ虚空を撃っただけだった。
『・・・・・・アオンゼウとほとんど同じ情報で構成されているあなたは、恐らくアオンゼウの写し身。概念無力化の力をその身と攻撃手段に宿すあなたの攻撃は、脅威以外の何者でもない。ですが、無駄です』
ヘシュナは消えた時と同じように、フッと少し離れた場所に現れた。ヘシュナに肉体はない。ぼんやりと光る少女のような姿は、ただヘシュナを可視化させるためだけの事象でしかない。つまり、いつでも消え、いつでも好きな場所に出現する事が出来る。ヘシュナという存在を捉える事は不可能に等しいのだ。例え、それが魔機神の写し身であっても。
『風よ。刃となって切り裂きなさい』
ヘシュナがそう唱えると、写し身の体を風の刃が切り裂いた。ヘシュナが起こしたのは事象。概念を現象として現す行為だ。それは、キベリアの魔法と同じ。ゆえに、写し身の概念無力化の力を貫通し、風刃は写し身の体に損傷を与える事が出来た。




