第1856話 亀裂を巡る戦い、決着4(5)
「「私は光を臨む。力の全てを解放し、闇を浄化する力を。光臨」」
アイティレとエルミナが光導姫としての全ての力を解放する。光導姫にとって最大の攻撃は、光臨状態でしか使用出来ないからだ。アイティレは響斬を凍らせないように離れると、両手の銃を写し身に向けた。エルミナも右の拳を天へと掲げる。冥も右手に闇を集中させ、刀時も刀を構え、レクナルも普通の矢で写し身のバイザーを射抜くと、特別な魔法を込めた矢を創造し、弓を引いた。
「いいみたいだね。よし、じゃあ行くぜ。響けば斬る。我流、奥義・・・・・・」
次の瞬間、響斬の姿が消え、チンと鈴の音のような音が響いた。それは響斬が刀を鞘に戻した音だった。
「『響斬』」
いつの間にか、写し身の背後に移動していた響斬がそう呟く。瞬間、写し身の体に右袈裟の大きな斬撃が刻まれた。写し身が十全な状態ならば響斬の奥義の速度に対応できたかもしれないが、レクナルに視界を一時的に破壊されていたため、写し身は響斬の攻撃を避ける事は出来なかった。
「・・・・・・!?」
写し身の体に刻まれた響斬の斬撃は消えなかった。それは超再生の力が働いていないという証拠。そして、それは概念無力化の力も働いていないという証拠でもあった。
「よくやったぜ響斬! 流石だ! さあ、ぶっ壊れろ! 黒撃!」
「―― 鉄血の拳。血は出てないから最大威力じゃないけど、まあいいよね」
冥とエルミナが最大威力の拳を写し身へと放つ。黒い闇纏う冥の拳が写し身の背部に、鋼色の光を纏うエルミナの拳が写し身の腹部を穿つ。両者の拳に挟まれた写し身の体は、凄まじい衝撃と共に大きくひしゃげた。
「おらッ!」
「早いが賑やかし卒業ってな」
次に刀時が両腕で剣を握り上段からの剛剣、剱原流剣術『装斬』を放ち、写し身に深い斬撃を与えた。ショットもひしゃげた写し身の部位を狙い、狙撃する。壊れた箇所を狙ったので、ショットの放った弾丸は貫通した。
「虚無へと還るがいい。アオンゼウの写し身よ」
レクナルが白い魔法の矢を放つ。矢は写し身の胸部へと突き刺さる。レクナルが放ったのは真実の矢。遍くモノを強制的に本質へと顕す矢。レクナルは機械人形の本質を、無機質な虚無と定めた。結果、穿たれた写し身はその体を無機質な虚無に引き摺り込まれる。現象としては、写し身の体は徐々に虚空へと消えていった。
「皆、私の射線上から退け! 我が正義、我が銃撃、我が氷、我が光よ。疾く在れ、永久の氷よ、我が銃撃に我が正義の光を乗せろ! |永久凍撃、全開発射《ヴィエーチヌイリオート・ヴェーシビィストレル》!」
最後にアイティレが最大浄化技を放つ。アイティレの銃の先から全てを永久に凍らせる光の奔流が放たれる。光は写し身を呑み込んだ。各々の最大威力の技を受けた写し身は、やがて小さな氷を乗せた風となって消滅した。
「勝った・・・・・・かな?」
「・・・・・・ああ、そのようだな」
「やったね。みんなの力の大勝利だ」
「よし、これでスプリガンのいる敵の本拠地に行けるな。ゾクゾクするぜ」
「相変わらずの戦闘狂っぷりだなあんた・・・・・・でも、気持ちは分かっちまうんだよな」
「いやー、みんなマジで凄いぜ。でも、狙撃が効かない奴とはもう戦いたくねえな・・・・・・」
「・・・・・・写し身とはいえ、概念無力化と超再生の力を持つ機械人形を消滅させる事が出来るか。異世界の者たちの力は侮れないな。これならば、本体にも・・・・・・」
響斬、アイティレ、エルミナ、冥、刀時、ショット、レクナルがそれぞれの感想を漏らす。アイティレは勝利の余韻に浸る事なく、光臨を解除すると写し身が守っていた亀裂へと近づき、ソレイユから預かった符を亀裂に貼り付けた。
――第4の亀裂、アルゼンチン。勝者、『提督』アイティレ・フィルガラルガ、『鉄血』エルミナ・シュクレッセン、『侍』剱原刀時、『狙撃手』ショット・アンバレル、『狂拳』の冥、『剣鬼』の響斬、『真弓の賢王』レクナル。こうして、第4の亀裂を巡る戦いは終了した。




