第1851話 亀裂を巡る戦い、決着3(4)
「いいのか!? なら悪い! 頼んだぞ!」
「ふっ、任せろ」
メティはハバラナスが只者ではなく、尋常ならざる実力者である事を、この短い時間共に戦う事で見抜いていた。ゆえに、戦士としての信頼を以て、何の躊躇も心配もなくその場から離脱した。ハバラナスもメティからの信頼が分かっていたので、気位が高い竜族にしては珍しい、素直な言葉を返した。
「さて、またしばしの間、貴様の相手は俺1人だ。機械に気概を説くのは的外れではあるが・・・・・・せいぜい、最後の力を振り絞って抵抗してみせろ。アオンゼウの写し身よ」
「・・・・・・!」
写し身は再生の機能を翼部に集中させると、そこから青い煌めきを放出した。それは全てを切り裂く極小の刃の群れ。その刃の群れがハバラナスに襲い掛かる。
「ふん。この程度で俺がどうにかできるものか。――ガアッ!」
ハバラナスが咆哮する。すると、赤い雷を伴った衝撃波が大気を揺らした。その咆哮で青い煌めきは全て吹き飛ばされ、写し身も見えない衝撃によって後方へと飛ばされた。
「っ、衝撃の余波がここまで・・・・・・凄まじいな」
軽く踏ん張りながらプロトがそう言葉を漏らす。味方なので頼もしい限りだが、もしハバラナスが敵だったらと考えると、末恐ろしいとプロトは思った。
「バチバチ、バチバチ・・・・・・よーし、あと少しだぞ!」
メティが大きく右手を引く。メティの右手と右手に装備されているクローナイフには青白い雷が蓄えられていた。メティは最大まで雷を右手とクローナイフにチャージする。
「うん。私の方ももう少しで描き上がる。君たちも準備をしておいてくれよ。攻撃の数は大いに越した事はないからね」
「言われなくとも分かっていますよ。彼女が最大浄化技を放った瞬間に私も追随します」
「同じく」
「はい。ピュルセ嬢」
「了解した」
凄まじい速度で絵を描いているロゼに、フェリート、殺花、プロト、エリアが頷く。ハバラナスは依然1人で写し身を止め続ける。写し身が大量の機械の剣やレーザーを放つ端末装置を呼び出し、後方にいるロゼたちを襲わせようとしても、その前にハバラナスは超雷速の速度でそれらを全て破壊した。
「よーし、バチバチ完全チャージ! ロゼ、いつでも行けるぞ!」
「了解した。うん、私もあとひと描きで完成だ。さあ諸君。準備はいいかい?」
ロゼの確認の言葉にフェリート、殺花、プロト、エリアが頷く。フェリートは右手にありったけの『破壊』の力を、殺花は影を己の身とナイフに取り込む闇影化を、プロトはメティの速度に対応すべく先に写し身に剣が届く範囲まで駆け出し、エリアは銃を構えた。
「さあ、美しい終曲といこうか。メティ、私が今から3秒数えるから、0になったら攻撃してくれ。そこの竜くん! 次にメティが切り裂いたら概念無力化の力が完全に解ける! だから、君もそのタイミングで攻撃を頼むよ!」
「俺に指図するか・・・・・・だが、よかろうよ」
ハバラナスもロゼの言葉を了承した。これで全ての準備は整った。
「3、2、1 、・・・・・・0。メティ!」
「おう! 行っくぞぉぉぉぉぉぉぉ!」
限りなく腹臥に近い姿勢で右手を引いたメティが地を蹴る。地上を奔る稲妻と化したメティは、大きく右手を振るう。ハバラナスはその瞬間にその場から離れる。そして、メティは写し身を切り裂いた。
「神獣の雷爪撃! 決まったぞ!」
「・・・・・・!?」
メティが明るく笑う。メティに体を大きく切り裂かれた写し身は、修復の始まらない自身の体を見下ろした。まるで、驚いているように。
「さあ、仕上げだ! 君の本質は今描かれた!」
ロゼが最後の一筆を加え、絵を完成させる。絵には細かな歯車の森に、顔のない人形が描かれていた。その背後の空間には、死を象徴する大きな髑髏が描かれている。意思なく死を運ぶモノ。それが写し身の本質だった。そして、ロゼが写し身の本質を描いた瞬間、写し身は光の粒子に包まれる。
「ふっ!」
「シッ!」
「はぁッ!」
「終わりだ」
「ふんッ!」
同時にフェリートが破壊纏う右手で写し身に触れ、殺花が影を溶かした闇刃で写し身を切り裂き、プロトも剣で写し身を切り裂き、エリアは他の者たちに当たらないように写し身だけを撃ち、ハバラナスは赤雷で出来た竜の顎門を放った。
「・・・・・・!?」
その結果、概念無力化の力を切り裂かれた写し身は、消える前に粉々にその身を破壊された。残っていた僅かな破片も、ロゼの絵を描いた効果によって光の粒子となって消えた。写し身はこの世界から完全にその姿を消した。
「ふぅ・・・・・・何とか勝ちましたね」
「・・・・・・はい。レイゼロール様の命令を遂行できてよかった」
「まさに皆の力を合わせた美しい勝利だね。だが、この中で特に力となってくれたのは、間違いなくメティと竜くん、2つの雷のおかげだね」
「そうですね。レガール嬢の力と、ハバラナスさんが態勢を整える時間を稼いでくれなければ、この戦いは勝てなかった」
「一流は客観的に事実を見る。そうだな。俺も『守護者』に同意だ」
フェリート、殺花、ロゼ、プロト、エリアがそれぞれ勝利の感想を述べる。
「いやー、褒めてもらうのは嬉しいけど、みんなのおかげだぞ!」
「ふん、好きに言え。・・・・・・だが、写し身は俺1人では倒せなかった。そういった意味では、貴様らに感謝しよう。異世界の戦士たちよ」
ロゼ、プロト、エリアに言及されたメティとハバラナスも、それぞれの反応を示した。メティが朗らかに笑い、ハバラナスも仏頂面ではあるが感謝の言葉を述べる。そして、ソレイユから符を預かっていたロゼは符を亀裂に貼った。
――第3の亀裂、南アフリカ。勝者、『芸術家』ロゼ・ピュルセ、『閃獣』メティ・レガール、『守護者』プロト・ガード・アルセルト、『銃撃屋』エリア・マリーノ、『万能』のフェリート、『殺影』の殺花、『赫雷の竜王』ハバラナス。こうして、第3の亀裂を巡る戦いは終了した。




