第1850話 亀裂を巡る戦い、決着3(3)
「・・・・・・?」
一方、メティに右腕の付け根を切り裂かれた写し身は不可解そうに首を傾げた。普通ならばすぐに修復されるはずだが、中々修復されない。回復の速度が遅々としている。
「っ、傷の回復が遅い・・・・・・? 彼女は何をしたのですか?」
「見ての通り、爪で切り裂いただけだよ。と言っても、速すぎて私には切り裂く瞬間は見えなかったが」
その光景を見ていたフェリートが疑問を抱く。フェリートの質問に答えたのは、メティと同じ光導姫であるロゼだった。そして、ロゼはこう言葉を続けた。
「光導姫ランキング8位『閃獣』。その能力は雷の如き速度に集約される。彼女は間違いなく光導姫で最も速い。最速の光導姫だ。そして、光臨した彼女の力は速度の更なる強化と、全ての特殊な効果を切り裂く破邪の爪の獲得だ」
「・・・・・・なるほど。その爪の効果で、概念無力化の力と超再生の力をも切り裂いたという事か」
「その通り。だが、彼女の爪でも完全に効果を切り裂くとはいかなかったようだね。その証拠に、非常に遅くではあるが傷が修復されている。恐らく、メティくんの爪の力と、機械人形の概念無力化がせめぎ合っているのだろうね」
殺花の呟きにロゼが頷く。メティの爪でも概念無力化の力を完全には切り裂けないとなると、いよいよ打つ手がない。しかし、ロゼは暗い顔にはならなかった。
「だが、メティの爪撃の最大出力、つまりは最大浄化技ならその拮抗を崩せるかもしれない。そして、その瞬間に私が機械人形の本質を描く、もしくは一斉に攻撃すれば・・・・・・」
「奴を倒せる・・・・・・か」
ロゼの言葉の先をエリアが引き継ぐ。それは明確な勝利への光明だった。
「そういう事だね。さて、ならば私も切り札を切るとしようか――私は光を臨もう。力の全てを解放し、闇を浄化する力を。光臨」
ロゼが力ある言葉を唱えると、ロゼの身が輝き世界を照らした。光が収まると、ロゼの姿が変わっていた。光臨したロゼは薄い青の右目と無色に変化した左目を写し身へと向けた。
「ほう・・・・・・なるほど。それが君の本質か。何とはなく予想はしていたし、美しいには美しいが・・・・・・虚しいね」
ロゼの光臨後の能力の1つは、ロゼの無色の瞳――様々なモノの本質を見通す目――の取得だ。その目で写し身の本質を見たロゼはそう呟くと、自身の周囲に浮かぶ筆を複数本取り、描きかけの絵を猛然と仕上げに掛かった。
「メティ、私が合図したら最大浄化技を頼めるかい? 君の最大浄化技なら、完全に写し身の概念無力化の力を切り裂けるはずだ!」
ロゼは絵を描きながらメティにも聞こえるような大声でそう言った。写し身にも聞こえるがこの際それは仕方ないとロゼは割り切った。
「おお、そうなのか!? 分かったぞ! でも、私の必殺技はちょっと溜めの時間がいるんだ! どうしよう!」
「・・・・・・よく分からんが、こいつを倒す目処が立ったのだな? そのために時間がいるのなら、変わらず俺が請け負おう。お前の攻撃でどういうわけか再生速度も遅くなっている。十二分に俺1人で問題ない」
写し身に赤い雷纏う打撃を繰り出しながら、ハバラナスがメティにチラリと視線を向ける。メティは明るい顔で頷いた。




