第1847話 亀裂を巡る戦い、決着2(5)
「・・・・・・ねえ、俺たち完全に蚊帳の外っぽいけど・・・・・・どうする?」
「・・・・・・どうもこうもするか。俺たちは守護者だ。守護者の仕事は光導姫を守る事。なら、その仕事をすればいいだけだ」
「・・・・・・まあ、確かにね。じゃあ、俺たちは臨機応変に動くか」
ノエとハサンは真夏とファレルナの近くに控えた。ノエとハサンの攻撃では、写し身にダメージを与える事は難しい。ゆえに、2人はいざとなれば自分たちが光導姫を庇えるように、守りの姿勢を取った。
「私の光よ! 力を払って!」
ファレルナが自身の全身から放たれる浄化の神気宿す光を腕の形に変える。大丈夫。自分の光ならば届くはずだ。ファレルナは自身を、そして自分を信頼してくれている仲間を信じた。その正の感情が、ファレルナの力を更に強める。ファレルナの頭上の光輪に光冠が展開される。それは、いつしかのゼノとの戦いで至った、光臨を超えた力だった。
「シスさん!」
「ふん、分かっている」
ファレルナの声を受けたシスは自身の力を全て解放した。途端、シスの髪の色が銀に変わり、瞳が真紅に、同じく真紅のオーラがシスに纏われる。真祖化。シスの本来の姿だ。シスは左手の爪を伸ばし、写し身の右腕と右翼を切断した。
「本来ならば貴様如きに見せる姿ではないが・・・・・・喜べ。運が良かったな。その光景を噛み締めて逝け」
シスは真紅の瞳で写し身を見つめると、残りの腕と翼、両足を切断し、左の拳で写し身のバイザーを破壊した。そして、無惨な残骸となった写し身を空中に放り投げる。
「くれてやる」
「はあぁぁぁぁぁぁぁッ!」
同時にファレルナが残骸となった写し身に光の腕を伸ばす。超再生の力を持っている写し身は、少ししてその体を完全に修復したが、その時にはファレルナの光の腕が写し身を包み込んでいた。イズとは違う再生速度の遅さ、その弊害が見事に露呈した。
「・・・・・・!?」
「皆さん!」
ファレルナの光の腕が、写し身の体に宿る「力」を無効化する。この瞬間、ファレルナの光は概念無力化の力だけでなく、超再生の力すら無効化していた。それは到底人の身が起こしたとは考えられない、正に奇跡の御業だった。
「俺のありったけの闇をくれてやる・・・・・・!」
ゼノが自身の全ての闇を全開にする。すると、ゼノの髪が全て黒色へと変わり、両目の琥珀色の瞳も漆黒へと変わる。ゼノもかつてファレルナとの戦いで至ったステージへと昇華した。ゼノは全てを喰らい尽くし破壊する闇を写し身へと放った。
「我は呪を操る者。今、この者に呪をかける。そのために、今おいでませ。須く、須く来たれ。究極の呪よ、この者を呪え。出し惜しみはなしよ! 来なさい、『呪神の腕』!」
真夏も光臨した自身の最大浄化技を放つ。真夏の背後の空間に黒い渦が現れ、そこから1本の細くしなやかな女性のような腕が出現する。その腕は空中の写し身に向かって真っ直ぐに伸びて行った。
「我は三なる真祖が一柱。死の軛の外にいる夜統べる主。生は永遠なる我が栄光。死は永遠なる我が仮想の友。その名において、その力において命ずる。我が手に宿れ。全ての生命を奪う死の御手よ。俺様が貴様に判決を下してやる。汝は死す。哀れなる魔機神の写し身よ」
シスは右手に死の禁呪を纏わせると、地を蹴り写し身へと近づいた。
「・・・・・・!?」
ゼノの破壊の闇、真夏の呪神の腕、シスの禁呪が同時に写し身へと触れる。ファレルナの光の腕は味方の「力」は無力化しなかった。味方、という意識がファレルナの力に作用したからだ。結果、概念無力化の力と超再生の力を無効化された写し身に、破壊と呪いと死が襲い掛かる。急速に写し身の体が粉微塵に崩壊し、写し身の最も大切なモノ、亀裂を守るという命令が奪われ、死が刻まれる。
そして、写し身は塵も残らず虚空へと消えた。
「・・・・・・俺たちの勝ち、かな」
「そのようですねー。ワタクシ、全くいいところナシでしたが。いやはや、道化として情けない限りですー」
「何言ってんの。あんたも守護者も、私たちを守ってくれてたじゃない。確かに目立ったのは私たちだけど、それだけよ! 胸を張りなさいピエロ! 私たちの勝ちよ! あはははは!」
「はい。皆さんの力のおかげです!」
「だってさ。そう言ってもらえると救われるね。『傭兵』」
「・・・・・・ふん」
「バカ共が。どう見ても俺様のおかげだ」
ゼノ、クラウン、真夏、ファレルナ、ノエ、ハサン、シスがそれぞれの言葉を述べる。そして、ソレイユから符を預かっていたファレルナが、その符を亀裂に貼る。ファレルナたちの役目は果たされた。
――第2の亀裂、イギリス。勝者、『聖女』ファレルナ・マリア・ミュルセール、『呪術師』榊原真夏、『傭兵』ハサン・アブエイン、『弓者』ノエ・メルクーリ、『破壊』のゼノ、『道化』のクラウン、『真祖』シス。こうして、第2の亀裂を巡る戦いは終了した。




