第1844話 亀裂を巡る戦い、決着2(2)
「ふん、損傷を回復したか。超再生の力を持っているようだな。おい貴様。確かゼノとか言ったか。あれは何だ。アオンゼウとほとんど同じ見た目をしているが」
「さあ、俺にも詳しい事は分からないけど・・・・・・見た目的にも、能力的にも多分アオンゼウの模倣体、写し身じゃないかな」
シスに促されたゼノが自身の見解を述べる。ゼノの見解に納得したのか、シスはゼノに何も言葉を返さなかった。
「アオンゼウの写し身・・・・・・なるほどな。超再生の力はアオンゼウ由来か。となれば、アオンゼウのそれ以外の能力も持っていると考えるべきだな」
シスはそう呟くと、自身の影を槍に変えた。そして、左手首を爪で切り裂き、血を剣に変えた。右手に影の槍、左手に血の剣を携えたシスは、再びゼノに質問を投げかける。
「だが、写し身ならば本物よりも劣っているのが道理だ。おい。アオンゼウが使った能力とあいつが使った能力の違いはあるか。具体的には、アオンゼウが使えて奴が使えない能力はあったか?」
「・・・・・・うーん。ちょっとすぐには分からないかな。思い出すから時間をちょうだいよ」
「ふん、使えん愚図だな。しかも、俺様に時間稼ぎを要求するか。・・・・・・すぐに思い出せ。そうでなければ、俺様が貴様を殺すぞ」
シスはそう言って、地を蹴り神速の速度で写し身へと接近した。そして、左手の剣を振り下ろした。
「・・・・・・!」
写し身は左手の光刃でシスの剣を受け止めた。すると、シスの血の刃が半ばから切断された。不壊属性を持つ造血武器が壊される。それは光刃に概念無力化の力が宿っているという証明だ。写し身は右腕の砲身を実体剣に変えると、その剣で反撃を行った。
「ふん。温いわ」
シスはその攻撃を難なく避けると、右足で思い切り写し身の足を払った。シスに足を払われた写し身は一瞬体勢を崩す。だが、写し身にはブースター付きの機械の翼がある。写し身はブースターと翼を使って姿勢制御をかけた。結果、写し身は倒れる事なく、倒れかけの姿勢から光刃による反撃を繰り出した。
「ほう。やる。とでも言うと思ったか」
シスはつまらなさそうな顔を浮かべながらも、光刃を回避しなかった。結果、シスの身が大きく切り裂かれる。光刃による斬撃なので血は出ない。そのため、血による反撃は出来ない。だが、シスの狙いはそれではなかった。写し身が攻撃を受けたと同時に、シスは自身の影を操作し、影を地面から突き出させ、写し身の頭部を影で貫いた。
「・・・・・・!?」
「ふん。この程度の攻撃を喰らうか。俺のようにわざと受けたというものでもない。魔機神の写し身といっても程度が知れるな。今まで貴様は、ただ雑魚を虐めていたに過ぎない。貴様に見せてやろう。真の暴力というものを」
シスはそのまま写し身の頭部を蹴り上げた。写し身の肉体が跳ね上がる。シスは右手の槍と残っている影で写し身の体を穿ち、切り裂く。シスは同時に自身の影の一部で自身の肉体を切り裂き、そこから出た血を流体状の刃として、その血刃も攻撃に加えた。黒と赤が奏でる恐ろしくも美しい暴力。その暴力の前に神の写し身は一方的に蹂躙される。
「・・・・・・やっぱり凄まじいな」
その光景を見ていたゼノがポツリと言葉を漏らす。ゼノにとって、シスが戦う光景を見るのは数回目だ。1度目は影人と戦った時、2〜3度目はヘキゼメリでの戦い。シェルディアをして、最も吸血鬼の力が上手いと言わしめる真祖。シェルディアのように『世界』という派手な業こそないが(もしくはまだ使っていないか)、十二分に圧倒的な暴力を感じさせる光景だった。シスの戦いを初めて見るゼノ以外の者たちも驚き、いっそ引いたような顔になっていた。




