第1842話 亀裂を巡る戦い、決着1(5)
「君の出したその答えが『終焉』の力をより強固に、あるいは変質させた。だからこそ、君はその氷を壊す事が出来たんだね」
「・・・・・・流石に分かりきっているな。そうだ。我のこの力が全てに対して平等ならば、如何なるものをも包み込む事が出来る。例えそれが同じ死であったとしてもな」
レイゼロールはそう言うと、ゆっくりとレゼルニウスに向かって歩を進めた。
「死を包み込むか。確かに『終焉』にならそれも可能だ。・・・・・・でも、だからといって僕が戦いを放棄する事はないよ」
レゼルニウスは自身の中から溢れ出す冥界の力を最大限にまで高めた。
「第9の冥獄、無間の獄夜、冥天、第9の福音、天明の審判」
レゼルニウスが最大にまで高めた力を放出する。すると、レゼルニウスの背後から全てを塗り潰す真っ黒な暗闇が出現した。そして、空が割れ太陽とは違う光がさす。暗闇はレイゼロールに纏わりつき、光はレイゼロールを照らす。その闇は纏わりついた対象の五感を永遠に奪い、光は照らした対象が闇の者であった場合、その者の精神を永遠に焼き続ける。無間の獄夜は冥界の地の国最下層の、天明の審判は冥界の天の国最上層の事象だった。
「ふん・・・・・・」
だが、レイゼロールは何事もないかのように歩き続けた。今のレイゼロールの『終焉』は死の世界の事象すらも包み込む。つまりは、無力化できるという事だ。
「うん。やはりこうなるね。じゃあ、最後。僕の切り札を見せよう」
レゼルニウスが右手を自分の胸に当てる。今のレゼルニウスの肉体は冥界と繋がっている。一種のゲートと化している自身の肉体から、レゼルニウスはある物を引き摺り出した。
「冥神の零、冥府の絶槍」
レゼルニウスが引き出した物は、紫闇の槍だった。それは禍々しさと神々しさを兼ね添えた不思議な槍だった。
「これは冥界の力全てが込められた槍だ。冥界の最高位の神たる僕にしか扱えない。レール。君は死の世界そのものを受け止め切れるかな」
「愚問だな。無論だ」
「なら、君を信じよう」
レゼルニウスは冥界そのものの力が込められた槍をレイゼロールに向かって投擲した。槍は真っ直ぐに飛んでいき、レイゼロールを正面から穿たんとする。レイゼロールはその槍を『終焉』の闇で受け止めた。
「ぐっ・・・・・・」
レゼルニウスの投擲した槍は、流石は冥界全ての力が込められているためか、今のレイゼロールでも受け止める事は難しかった。
「死の世界・・・・・・流石に重い。だが、受け止めきってみせよう。我はレイゼロール。『終焉』を司る闇の女神。死の世界すらも安寧の闇で包んでやろう!」
レイゼロールは己から噴き出す『終焉』の闇を全開にした。自身が司る権能に対する答えを得たレイゼロールの『終焉』は、先ほどまでの『終焉』とは違う。力の意義を得、強固になり、拡張されたレイゼロールの『終焉』は、槍を包みやがて消し去った。
「・・・・・・見事だ」
レゼルニウスが満足そうな笑みを浮かべる。レイゼロールはそのままレゼルニウスとの距離を詰め、
「・・・・・・終わりだ。兄さん」
『終焉』の闇でレゼルニウスを包み込んだ。
「ああ、僕はなんて幸運なんだろう・・・・・・君が一人前の女神になれる瞬間を間近で見る事ができた。兄として、いや君を痛めつけた僕に兄を名乗る資格はないな。1柱の神として、これほど嬉しい事はないよ。よくぞ、よくぞ僕を越えた」
『終焉』の闇に包まれたレゼルニウスが軽く瞼を閉じる。レゼルニウスは冥界の神。すでに死んでいるレゼルニウスが『終焉』を受けても死ぬ事はない。だが、レゼルニウスの体は黒い粒子となって消えていく。レイゼロールの『終焉』に包まれた事によって、レゼルニウスはあるべき場所へと戻されるのだ。つまり、冥界へと。体が黒い粒子になっているのはその過程だった。
「・・・・・・何を言う。兄さんは我の兄さんだ。資格云々などあるものか。・・・・・・ありがとう、兄さん。本当に、本当にまた会えて嬉しかった。後は任せてくれ。我たちを見守っていてくれ」
「っ・・・・・・全く、どこまで優しいんだ君は。彼に似たね。うん。ありがとうレール。またあっちの世界から君たちを見守るよ。さようなら、レール。僕の愛する妹よ」
レゼルニウスは泣きながら満面の笑みを浮かべた。そして、レゼルニウスは黒い粒子となって完全に消えた。
「・・・・・・ああ。さようなら、兄さん。我の最も敬愛する神よ」
レイゼロールは少し悲しげな顔を浮かべると、大きな亀裂に向かって歩いた。そして、亀裂に影人から預かった符を貼った。
――第1の亀裂、ロシア。闇の女神レイゼロールVS冥界の神レゼルニウス。勝者、闇の女神レイゼロール。こうして、とある兄妹の戦いは終了した。




