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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
1841/2051

第1841話 亀裂を巡る戦い、決着1(4)

「永久の氷咎はその名の通り、対象を永久に凍らせる。命の花は、光の加護を持つ者には力を与え、闇の加護を持つ者にはその逆、力を奪う。視界を奪われ感覚を狂わせられ、力を吸われ、そして凍っていく。レール、このまま何もしなければ、君の負けだ」

 レゼルニウスの言葉が暗闇の野に響く。状況を理解したレイゼロールはしかし、何も焦りはしなかった。

(兄さんは言っていた。『終焉』は全てを終わりに導く力だと。終わりとは何だ。生物に限って言うのならば、終わりとは死だ。では、死とはなんだ?)

 レイゼロールはただ思考を続けた。視界を奪われ、感覚もおかしくなり、力を吸われ衰弱し、凍っていることによって意識もぼんやりとし始めているのに。1本の思考の線を強く意識して。

(死とは忌避すべきものだ。死んでしまえば何も出来なくなる。本来ならば、全ての生物が必ず行き着く場所。だが、不死者にとっては死とは必ずしも忌避すべきものではない。我もシェルディアも、かつては死を望んでいた)

 それはなぜか。生きるのに疲れたから、あまりにも長い時を生きすぎたからだ。レイゼロールやシェルディアは、死に安寧を求めた。

(ああ、そうか。死とは恐ろしいだけの力ではない。死とは、終わりとは・・・・・・)

 レイゼロールが一種の答えに辿り着く。だが、レイゼロールが答えに辿り着いた直後、レイゼロールの体は完全に凍ってしまった。同時にレイゼロールの意識も凍りついた。

「・・・・・・」

「・・・・・・残念だ。レール、君ならば僕を超えてくれると信じていたんだけどね。どうやら、まだもう少しだけ時が足りなかったらしい」

 凍りついた自分の妹を見たレゼルニウスがそう言葉を漏らす。レゼルニウスは思わず一条の涙を流した。ずっとずっと堪えてきたが限界だった。

(これが僕の選んだ結果。僕の罪。僕のせいでこの世界は・・・・・・)

 レゼルニウスが暗澹たる気持ちを抱いた時だった。突然、凍っているレイゼロールにピシリとヒビが入った。

 そして、

「・・・・・・時間なら足りている。本当にギリギリだったがな」

 次の瞬間、氷が砕けた。自由を取り戻したレイゼロールはレゼルニウスにそう言葉を放った。

「っ・・・・・・レール」

 復活したレイゼロールを見たレゼルニウスがその目を大きく見開く。第8の冥獄、永久の氷咎は意識すらも完全に凍りつかせる。冥獄の氷は決して溶けず壊れない氷だ。だが、レイゼロールはそれを破った。その事実がレゼルニウスを驚かせる。

「ようやく分かったぞ。兄さんが言っていた言葉の意味が。力の意義を考えろ。あれは・・・・・・力の解釈を広げろという意味でもあったのだな。だから、兄さんは我が答えを出さなければ勝てないと言った」

 レイゼロールは自身の体から噴き出す『終焉』の闇を見つめた。レイゼロールはこの闇が持つ全てを終わらせる力を、恐ろしいものだと言った。だが、違ったのだ。

「・・・・・・この力は全てを終わりに導く、死と同義の力だ。そして、死とは全ての生物に訪れる果て。・・・・・・死とは恐ろしいものだ。だが・・・・・・同時に安寧でもある。平等に訪れる安らぎだ。死とは、終わりとは、恐ろしいだけの力ではない。平等な優しい力だ」

 レイゼロールはしっかりとした目でレゼルニウスを見つめた。それがレイゼロールが出した『終焉』の力の意義、答えだ。

「・・・・・・うん。素晴らしい。いい答えだ。それでこそ『終焉』を司る女神。そうだ。終わりとは決して恐ろしいだけの力じゃない。夜の闇の如く、静寂と安寧を与え包み込む事が出来るものだ」

 レゼルニウスは満足げに笑った。ああよかった。もう大丈夫だ。自身が司る『終焉』の力を取り戻し、その意義にも答えを出した。レイゼロールは今こそ一人前の神となった。レイゼロールは自分を越えてくれる。レゼルニウスはそう確信した。

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