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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
1840/2051

第1840話 亀裂を巡る戦い、決着1(3)

(しかし、我は諦めるわけにはいかない。兄さんに勝たなければならない。任されたのだ。我はあいつに)

 レイゼロールはポケットの内に入っている、影人から託された符を、布の上からそっと触った。レイゼロールと同じように、符は燃やされ切り裂かれたはずだが、確かに形を保ったままここにある。流石は真界の神の最高位たる『空』の力が込められた物だ。頑丈である。

(我はあいつの信頼に応えたい。そのためにも考えろ。どうすれば兄さんに勝てるのか。今までの戦いで何かヒントはないか。思い出せ)

 レイゼロールは冷静に、かつ必死に記憶を呼び起こした。どんなに絶望的な状況でも、決して諦めずに思考する。それは、どこかの前髪が長い少年と同じ姿勢だった。

(力、力の意義・・・・・・兄さんは言っていた。この戦いで我が『終焉』の力の意義、その答えを出さなければ勝てないと。兄さんはフェルフィズとの契約によって我と戦っているが根は変わらない。優しい、本当に優しい神だ。我には分かる。あの時から何も変わってはいないと)

 今のレゼルニウスは冷酷に見えるが、それはレイゼロールが敵らしく振る舞えと言ったからだ。その証拠に、レゼルニウスは小さく、本当に小さくではあるが震えていた。それは心を殺しても拭えない拒否反応だ。兄妹であり、誰よりもレゼルニウスの事を知っているレイゼロールだからこそ分かる反応。

(兄さんの言葉には意味がある。我を想い、見守り続けていてくれた兄さんの言葉が嘘であるはずがない。『終焉』の力の意義。おそらく、それを見出すことが勝利への道だ)

 気づきは得た。後は答えを出すだけだ。レイゼロールの目に小さな希望の光が灯る。

「ふむ・・・・・・目の色が変わったね。僕を倒す方法に見当がついたのかな」

「ああ。心優しく妹に甘い兄のおかげでな」

 レゼルニウスも兄妹だからか、レイゼロールの小さな変化を見逃さなかった。

「・・・・・・そうか。これだけ酷い事をしたのに、まだそう言ってくれるのか。こう思ってはいけないのに・・・・・・救われる気分だよ」

 今にも泣き出しそうな顔でレゼルニウスは笑った。だが、すぐに顔を引き締めた。

「だけど、だからといって手は抜かないよ」

「当然だ。そういった意味で言ったのではないのだからな」

「ならよかったよ。冥天、第7の福音、白翼の雨」

 レゼルニウスがそう唱えると、突然空から白い羽が降ってきた。1つ、2つといった数ではない。大量に。それこそ雨のようにだ。白い羽は当然、レゼルニウスとレイゼロールに触れる。

「っ・・・・・・」

 その羽に触れた瞬間、レイゼロールの視界が突然暗転した。レイゼロールの前に広がるのは、無辺の暗闇だけだ。

「白翼の雨も聖鐘の音と似たようなものだよ。聖鐘の音が、音を聞いた闇の者に対して平衡感覚を狂わせる効果を持っているように、白翼の雨は、白翼に触れた闇の者に対して視界を奪う効果を持っている。今の君は何も見えてはいないだろう」 

 レゼルニウスはそう言うと、今度は鐘を弾いた。聖なる鐘の音がレイゼロールの平衡感覚を狂わせる。

「これで感覚も狂った。今の君は真に無力だ。そして、僕はそんな君に容赦はしない。第8の冥獄、永久の氷咎ひょうきゅう、冥天、第8の福音、命の花」

 レゼルニウスが冥界における地の国、天の国、共に第8階層の事象を呼び出す。すると、レイゼロールの周囲を取り囲むように水色の魔法陣が出現し、レイゼロールの胸元に一輪の白い花が咲いた。

「ぐっ・・・・・・!?」

 途端、レイゼロールを新たに2つの感覚が襲った。1つは何か力が吸われているような感覚で、もう1つは体が凍っていくような感覚だ。視界を奪われ平衡感覚も狂っているレイゼロールには、正確に自分の身に何が起きているのか分からなかった。

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