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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
1837/2051

第1837話 亀裂を巡る戦い6(5)

「「っ!?」」

 その物量は流石に今の陽華と明夜でも避け切れない。2人の歩みが止まる。

「言ったはずだ。こいつらをそう簡単には殺らせないってな」

 だが、2人を襲わんとした機械の剣とレーザーは、次の瞬間に闇の中に掻き消えた。影人が『終焉』を発動したのだ。『終焉』の闇は概念無力化の力を唯一貫通し得る。終わり、つまりは死の概念だ。イズの本体という例外はあるが、それ以外ならば全てに有効だ。

「口を閉ざすなよ。決めたんだろ、救うって。なら、突き進め。安心しろ。ヤバかったら俺が助けてやる。いつもみたいにな」

「っ、うん!」

「本当、心の底から安心できるわね!」

 影人の力強い言葉が陽華と明夜に力を与える。2人は再びイズへと向かい始める。

「偉そうなのは分かってる! でも、それでも私たちはあなたを救いたい!」

「偽善者と呼ばれても構わないわ! だけど、それでもと私たちは言い続けるわ!」

 陽華と明夜がそう叫ぶ。イズにある程度まで近づいた2人は、イズに向かって手を伸ばした。

「ああ、いい。実にいいですねえ」

 その光景を見ていたフェルフィズはうっとりとした表情を浮かべた。

「だから不要だと言っている・・・・・・!」

 イズは少し苛立ったような顔になると、2人の手から逃れるように空中へと羽ばたいた。

「不快です。死になさい」

 イズは自身の本体たる大鎌に、自分と見えない経路で繋がっているフェルフィズの生命力を流し込んだ。生命力を喰らった大鎌はその刃を怪しく輝かせる。そして、アオンゼウの器の機能を使って、影人たちを一斉に認識した。

「あれが来るか・・・・・・なら・・・・・・!」

 イズが何をしようとしているのか察した影人は、他の者たちに付与した闇の力を通じて、陽華、明夜、暁理、ソニア、風音、ダークレイ、光司、壮司を認識した。そして、自身の中から莫大な何かを消費する感覚――正確には力――に襲われ、『世界端現』の力を行使した。

 イズが大鎌を振るう。生命力を喰らい真の力を解放した大鎌の斬撃は距離を殺し、イズの認識能力によって一斉に影人たち全員に刻まれた。普通ならば、『終焉』を纏う影人以外は即死だ。

 だが、その直前に影人以外の者たちに『世界端現』の闇が纏われる。それは影人が自身の『世界』で纏う影闇。死の力を弾く闇だ。その結果、斬撃こそ刻まれたが、全員が死ぬ事はなかった。役目を終えた『世界端現』の闇は虚空へと消えた。

「っ、イヴ!」

『分かってるよ! ったく、俺の使い勝手が荒い奴だぜ!』

 影人の指示を察したイヴが影人を含めた全員に回復の力を使用する。その結果、全員の傷は綺麗さっぱり修復された。

「痛っ!? って思ったら治ってる!? ありがとうスプリガン!」

「今のが絶対不可避の死の一撃・・・・・・スプリガンがいなければ死んでいたわね・・・・・・」

 陽華が驚いたような顔を浮かべながらも影人に感謝の言葉を述べる。風音は予め聞いていたイズの力を実際に受けた事によって、その恐ろしさを実感として知った。

(何とか凌いだが・・・・・・やっぱり尋常じゃなくキツいな。力の消費量がヤバい。正直、持ってあと数回分くらいしか凌げないぜ)

 影人は内心でそう呟いた。影人が今取った『世界端現』と回復の力を合わせた方法ならば、誰も死なずに戦う事が出来る。だが、この方法は長くは続けられない。

「・・・・・・凌ぎましたか。ですが、いつまで続けられるでしょうか」

 イズが再び大鎌に生命力を流し込む。影人が大鎌による絶対不可避の攻撃を凌ぐのに莫大な力を消費するのに対し、イズはおよそ無限に大鎌による攻撃を仕掛けられる。その事実が何を示すのは明らかだ。 

「ちっ!」

 影人は再び『世界端現』の力を使おうとした。『世界端現』の闇は持続させても莫大な力を消費し続ける。ゆえに、影人はピンポイントで『世界端現』を使用する方法を採用していた。

 生命力を喰らった大鎌の刃が再び怪しく輝く。イズは端末装置と、浮遊させていた砲身からレーザーを放つ。そして、再び絶対不可避の死を放とうとした。


 だがその時、どこからか赤い斬撃と白銀の尾が現れ、イズに攻撃を行った。


「っ・・・・・・」

 斬撃に機械の翼を切り裂かれ、尾に叩かれたイズは地上へと落下する。だが、イズの体には超再生の力が備わっている。イズ本体のダメージはすぐに修復され、イズに装備されている機械の翼もその一部と認識され、翼も修復された。

「――どうやら一応は間に合ったようね」

「――ほほっ、そうじゃの。少し遅れてはしまったようじゃが、まあ主役は何とやらじゃ」

 すると影人たちの背後から声が響いた。影人たちはそれぞれ後方を振り返る。

 そこにいたのは2人の女性だった。1人は、ブロンドの髪を緩いツインテールに結び、豪奢なゴシック服を纏った人形のように美しい、歳の頃14〜15歳くらいの少女。いや、正確には少女の姿をしたモノというべきか。少女は吸血鬼と呼ばれるモノだった。

 もう1人は、薄い白銀に墨色が所々入った長髪に、頭から同じく白銀の耳を生やした、黒い着物を纏った、歳の頃20後半から30代前半の美女。その女は妖狐と呼ばれる人ならざるモノだった。

「・・・・・・遅いぜ。嬢ちゃん、白麗さん」

「あらごめんなさい。だけど、その分は働くから許してちょうだいな」

「まあ、誰も死んでおらんようじゃからいいじゃろ。許せよ」

 影人が現れた2人に対してそう言葉をかける。影人の言葉にその2人――『真祖』シェルディアと『破絶の天狐』白麗は笑みを浮かべた。


 ――第6の亀裂、日本。『真祖』シェルディア、『破絶の天狐』白麗、合流。

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