第1836話 亀裂を巡る戦い6(4)
「やっぱり、戦うしかないんだね・・・・・・!」
「仕方ないわ。拳で語り合いましょう・・・・・・!」
陽華と明夜が覚悟を決めたように言葉を述べた。次の瞬間、イズが神速の速度で地を蹴った。それは光導姫と守護者、闇人にも知覚出来ない速度。イズはまず陽華に接近すると、陽華に向かって大鎌を振るった。当然というべきか、陽華はイズに攻撃されている事にも気づかない。
だが、1人だけ、1人だけイズの速度に反応出来る者がいた。陽華に攻撃しようとするイズに向かって影が奔った。その影はイズの胴体部に蹴りを放ち、イズを蹴り飛ばした。
「・・・・・・この俺が、そう簡単にこいつらを殺らせるわけねえだろ」
イズを蹴り飛ばしたその影――影人がそう言い放つ。影人に蹴り飛ばされたイズは、空中で翼とブースターを使った姿勢制御を行うと、何事もなく着地した。
「・・・・・・やはり、あなたが私にとって最も面倒な存在になりますか。帰城影人」
「ふん・・・・・・お前にだけには言われたくねえな。面倒、なんて存在を通り越してる奴にはな」
イズの赤と青の混じった特徴的な目を、影人はスプリガンの金の瞳で受け止めた。
「えっ、帰城くん!? いつの間に!?」
「ボサっとするな。俺が助けなきゃ死んでたぞ。・・・・・・とは言っても、流石に反応できる速度じゃねえか。やるのは初めてだが・・・・・・」
影人はスッと陽華に右手を向けた。意識するのは与えること。すると、陽華の目に闇が瞬いた。
「っ・・・・・・? どうしたんだろ。何か急に意識がクリアになったみたいな・・・・・・」
「・・・・・・成功だな」
陽華の反応を見た影人がそう呟く。影人は陽華に闇による目の強化と『加速』の力を施した。他人に施すのは初めてだったが、流石はどんな形にも力を変え、どんな状況にも対応するスプリガンの力だ。イヴの万能ぶりに影人は感謝した。
「ついでにお前らもだ」
影人は明夜、暁理、ソニア、風音、ダークレイ、光司、壮司にも目の強化と『加速』の力を施した。
「これは・・・・・・」
「何か覚醒した気分だわ・・・・・・」
光司と明夜が驚いたような顔になる。他の者たちも似たような反応を示した。ただし、ダークレイだけは「ふん、施しなんて・・・・・・」と気に食わない様子だった。
「お前らに施したのは目の強化、要は反応速度の強化と速く動ける『加速』の力だ。これで、最低限はあいつの動きに対応できる」
「うわ凄い! さすがスプリガン。戦闘だと頼りになるね♪」
「『歌姫』に同意だね」
「おい、お前らそれはどういう意味・・・・・・」
影人がソニアと暁理に文句を言おうとすると、イズが浮遊させていた2つの砲身からレーザーを放ってきた。影人たちはその場から散開した。
「余裕ですね。私には絶対不可避の死を与える手段があるというのに」
「・・・・・・別に余裕ってわけじゃねえよ。ずっと気は張ってたからな」
イズは砲身から放たれるレーザーを連射する。影人、それに他の者たちは、触れればタダでは済まない光線を避け続ける。
「凄い。本当に凄い。見える。体がついてくる。これなら・・・・・・行ける!」
「これがスプリガンが見ている世界・・・・・・これなら私たちだって!」
余裕、というほどではないが、確実に光線を避けらている陽華と明夜は、自信を持つと、イズのいる方に向かって一歩を踏み込んだ。
「イズちゃん! あなたは何でこの世界を無茶苦茶にしたいの!?」
「・・・・・・製作者がそれを望んでいるからです。私は意思を持ってはいますが道具。被創造物です。被創造物は創造主に従う。それが道理です」
陽華はレーザーを回避しながらイズとの距離を詰める。
「そんな道理はないわ! 意思があるなら、あなたは自由になっていいのよ!」
「自由になる意義が分かりません。私は自由を望んではいない」
明夜も徐々にイズとの距離を詰めながら語りかける。イズは淡々とした様子で返答する。
「そもそも、あなた達は何様のつもりですか。私を救う、などと。傲慢極まりない」
イズは背部の魔法陣から大量の機械の剣と端末装置を呼び出した。機械の剣と、端末装置から発射されたレーザーは、一斉に陽華と明夜に襲い掛かった。




