第1835話 亀裂を巡る戦い6(3)
「・・・・・・嘘をついている様子には見えない。あなた達は本心からそう言っているのですね」
イズは2人の言葉をそう判断すると、視線を影人へと移した。
「そして、思い出しました。帰城影人、あなたが言っていた、私を救いたいと言っている者たちは、彼女たちなのですね」
「・・・・・・まあ、そういうことだ」
「「っ?」」
影人は頷く代わりに軽く目を伏せた。影人はこちらの世界に戻って来て、イズやフェルフィズと会った事を誰にも言っていない。そのため、陽華と明夜はイズの言葉の意味がわからず不可解な顔になった。
「いやぁ・・・・・・いやぁ・・・・・・! いい。いいですね。実にいい。本当にいい!」
パチパチと拍手の音が響いた。拍手をしたのはフェルフィズだった。フェルフィズは、まるで名演説に心を打たれた聴衆の如き様子だった。
「素晴らしいですよあなた達! 流石は人間の善性の光たる光導姫だ! イズがどういう存在か知った上で、心の底からそう言える! 考えられる! 敵である存在に歩み寄れる! 真に平等、真に博愛だ! 私は感動しましたよ!」
興奮した様子でフェルフィズはそう叫んだ。先ほどまでとは打って変わって、狂気の混じった熱を帯びたフェルフィズに、影人たちは呆気に取られる。
「いいですねえ! ご大層なだけの大義よりよっぽどいい! ですが、初めから対話だけというのは味気ない! 対話は、真に心を揺さぶる言葉は、互いにぶつかり合ってこそ生まれるのですから!」
フェルフィズの狂気を帯びた熱が最高潮にまで高まる。そして、フェルフィズはこう宣言した。
「戦いを通してあなた達がイズを救えるか、はたまた境界が完全に崩壊するのが先か! やってみてください! あなた達の思いはこの最後の戦いに焚べゆくに相応しい! 思いと場! 全ては揃いました! さあ、始めましょう! 最後の戦いを! イズ!」
「はい。兵装展開」
フェルフィズに名を呼ばれたイズは、アオンゼウの器に搭載されている機能を使用した。イズの周囲に魔法陣のようなものが複数出現し、そこから武器や機械などが出て来た。そして、それらは1人でにイズに装着されていった。
「兵装展開、完了」
両腕に砲身、腰部には機械式のスカート、背中にはブースター付きの機械式の翼、その他に肩や胴体部に細々とした機械が装着され、背後には6つほど小さな魔法陣が常時展開される。アオンゼウの「魔機神」としての姿を解放したイズは、砲身を纏う右手をスッと真横に伸ばした。
「来なさい、私の本体」
イズが虚空に呼びかけると、イズの右手の先の空間に小さな暗い穴が生じた。すると、そこからゆっくりと大鎌が現れた。イズは持ち手を掴むとそれを一気に引き抜いた。現れたのは漆黒の刃を持つ大鎌。切り裂いたモノ全てを殺す、死神の大鎌だ。
「『フェルフィズの大鎌』・・・・・・久しぶりに見たぜ。何か赤い宝石ついててちょっと変わってるが・・・・・・悍ましさは変わらねえな」
かつて一時的な所有者であった壮司がそう呟く。イズは両腕に装備していた砲身をパージした。パージされた砲身は地には落ちず、そのままイズの周囲に浮遊した。
「戦闘を開始します」
無感情にイズが宣言を行う。その宣言を聞いた影人たちは身構えた。
――第6の亀裂、日本。光導姫レッドシャイン朝宮陽華、光導姫ブルーシャイン月下明夜、光導姫アカツキ早川暁理。『歌姫』ソニア・テレフレア、『巫女』連華寺風音、『死神』案山子野壮司、『騎士』香乃宮光司、『闇導姫』ダークレイ、スプリガンVS『忌神』フェルフィズ、イズ。戦闘開始。




