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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
1834/2051

第1834話 亀裂を巡る戦い6(2)

「・・・・・・覚悟はいいかお前ら。魔王・・・・・・まあもっとタチが悪いが、裏ラスボス共に挑む覚悟はよ」

 数分後。影人たちは最上階の大きな扉の前にいた。『終焉』を解除した影人は巨大な闇色の鳥を創造し、皆をその鳥の背に乗せ、最上階に至ったのだった。

「うん!」

「当然」

「はい」

「オールライト♪」

「ちゃんと出来てるよ」

「愚問ね」

「守護者として、またこの世界に生きる者としての使命を果たすよ」

「ここまで来たらやるしかねえよな」

 影人の確認に、陽華、明夜、風音、ソニア、暁理、ダークレイ、光司、壮司が頷く。影人は自身も最後に頷くと、扉を開けた。

 扉が開かれた先は広大な広間になっていた。明らかに今までの階層にあった空間よりも広い。最上階だけわざと広く作ってあるのだろう。

「――全く、せっかく用意していた仕掛けの数々が無駄になりましたよ。まあ、君が何らかの方法で近道をしてくるのは予想していましたがね」

 影人たちが広間に入るとそんな声が響いた。それは男の声だった。それは影人が幾度となく聞いた声。そして、いま影人が最も憎む者の声だ。

「ようこそ影人くん。そして、光導姫と守護者、闇人。私の、忌神の神殿へ。さながら、あなた達は世界の危機に立ち向かう勇者といったところでしょうか。初めましての方ばかりなので自己紹介を。私の名はフェルフィズ。物作りを司る、ただのしがない神です」

 コツコツと靴音を立てながら影人たちの前に姿を現したのは、若い男だった。男にしては少し長めの黒髪に、薄い灰色の目。一見すると穏やかな雰囲気のその男は、しかしその内に世界を破滅させるほどの狂気を秘めている。フェルフィズはニコリと笑い影人たちにそう挨拶した。

「そして、もう1人。これから君たちと戦う、私の最高傑作をご紹介しましょう。イズ」

 フェルフィズが自分の斜め背後に体を向け、そう呼びかける。すると、少女の姿をしたモノが現れた。光沢感のあるプラチナホワイトの髪に、スクール水着のようなピッタリとした服。周囲が水色で中心が赤色という変わった目の色。異世界の魔機神、アオンゼウの器に宿った「フェルフィズの大鎌」の意思、イズは影人たちを見据えると口を開いた。

「イズです。これからあなた方の命を奪う者です。見知りおきは結構です」

 イズは無感情にそう言い放った。無慈悲な殺人宣言を受けた影人たちだったが、しかし顔色を変えた者は誰1人としていなかった。

「おお、こいつは思ってた数倍の美少女さんだ。しっかし、随分と冷たいご挨拶だな。あんたがフェルフィズの大鎌の意思だっていうなら、俺とはそれなりの付き合いがあるはずだろ。なら、もうちょっと優しい言葉を掛けてくれてもいいんじゃねえか?」

 壮司はヘラリとした顔でイズにそう言った。壮司の言葉を受けたイズは興味なさげに、壮司を一瞥した。

「案山子野壮司・・・・・・確かに、私の本体は少しの間あなたと共にありました。ですが、それだけです。あなたに対する思い入れなど微塵もありません」

「辛辣だねえ。残念、フラれちまったよ」

 壮司はヒョイと肩をすくめた。すると、陽華と明夜が一歩前に出た。

「初めましてイズちゃん。私は光導姫レッドシャイン」

「同じく、ブルーシャインよ」

 陽華と明夜が自分たちの光導姫名を名乗る。イズは変わらず興味のなさそうな目を、陽華と明夜に向けた。

「・・・・・・あなた達の事は知っています。レイゼロールと戦っていた光導姫ですね」

 本体の記憶からイズは陽華と明夜の事を知っていた。イズに認識された陽華は「そっか。私たちの事、知ってくれてたんだね」と小さく笑った。

「イズちゃん、私たちはあなたと戦いに来たわけじゃないの。私たちは・・・・・・あなたを救いに来たの」

「ほう・・・・・・」

「? 私を救う・・・・・・? いったい何を言っているのか理解できません」

 陽華の言葉を聞いたフェルフィズは興味を示したような顔になり、イズは首を傾げた。

「イズちゃん、あなたも世界を滅茶苦茶にしたいの? どうしてもそうしたい理由があるなら、私たちは止めない、いや止めきれないわ。でも、あなたがフェルフィズに従ってるだけなら・・・・・・私たちはあなたと話がしたい。私たちはあなたをただ敵としたくないの」

 明夜が真摯な様子で言葉を述べる。明夜の言葉に続くように陽華はこう言った。

「イズちゃん、意思があるならきっとどんなものだって、自由に生きていいの。やりたい事をやってみたり、それがなかったら探せばいい。意思があるって、生きるって多分そういう事なんだと思う。だから、あなたも」

 陽華はスッと差し出すように右手をイズに向ける。明夜も差し出すように左手をイズに向けた。

「イズちゃん、私たちはあなたと戦いたくない。倒したくない。だから、話をして友達になろう」

「きっと案外に楽しいわよ。この世界は」

 2人が差し出した手は友好を結ぶためのものだった。陽華と明夜が「救う」といった言葉の意味。それを理解したイズはしばらくの間、ジッと2人を見つめた。まるで、真意を確かめるように。

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