第1833話 亀裂を巡る戦い6(1)
「ギョア!」
第6の亀裂、日本。忌神の神殿内。奇怪な鳴き声を上げながら大きな鉤爪を振るって来た生物――頭部が鳥で、体が筋肉質な人間のような奇妙な姿――に対し、壮司は大鎌を振るった。大鎌はその生物の頭を刎ねる。ドサリと重い音を立てながら、首が落ちた。
「ふぅ、終わりか。しかし・・・・・・けっこう登ってきたが、まだまだ先は長そうだな」
大鎌を下ろした壮司が軽く息を吐く。1階で蠍のような怪物を倒し、壮司たちは最低でも10回は階層を登った。その度に怪物のようなモノを倒してきたのだが、最上階と思われる場所にはまだ辿り着かない。
「・・・・・・本当、面倒くさいわね。ねえ、あんた。まだショートカットの方法は思いつかないの?」
ダークレイが不機嫌そうに影人にそう聞く。影人はスプリガンの金の瞳をダークレイへと向けた。
「・・・・・・一応は思いついた。要は、この建物を壊し切らなきゃいいんだろ」
影人は天井を見上げ、スッと右手を上に伸ばした。そして、頭の中で円をイメージする。
「解放――『終焉』」
同時に影人は『終焉』の闇を解放した。影人の姿が変化し、体から全てを終わらせる闇が噴き出す。影人は『終焉』の闇を頭の中で描いた円に合わせるように、天井に向かって『終焉』の闇を放出した。
放出された闇は天井を形作る物質を綺麗に穿った。『終焉』の闇は触れたモノだけを終わらせる。周囲を余計に破壊する心配はない。影人は変わらず円をイメージしながら闇を放出し続けた。その結果、闇は円柱上に昇っていき、次々と階層の天井を穿っていった。そして、やがて星の光が見えた。
「・・・・・・取り敢えず成功だな。後はこの穴を使って上まで行けばいい」
右手を下ろした影人が、黒と金に変化したオッドアイをダークレイの方に移す。綺麗に開いた穴を見上げていたダークレイは「ふん」と顔を下ろした。
「思いついてたならさっさとやりなさいよ。グズね、あんた」
「・・・・・・口の悪さだけは天下一品だな。てめえも1回この闇に触れさせてやろうか」
ピクピクと唇の端を引き攣らせながら、影人はそう言った。どう考えても、ここで罵倒の言葉を受ける謂れはない。あまりにも理不尽である。
「うわー凄い。綺麗に穴が空いてる。ありがとう帰城くん!」
「ダンジョンを裏技で攻略するのは賛否あるけれど、今回は仕方ないわよね」
「ロングヘアーの帰城くんも格好いいよね。美しさと凛々しさが際立っているというか」
「あ、分かる。影くん意外と女装とか似合う系だよね♪」
「うーん、影人が女装か・・・・・・僕は絶対悍ましいと思うけどね」
「光司くん・・・・・・私が知らない間にいったい何が・・・・・・」
「ははっ、本当賑やかだねえ」
陽華、明夜、光司、ソニア、暁理、風音、壮司もそれぞれ感想を漏らす。その騒がしさに影人は苛立つのもバカらしくなり、やがて大きく息を吐いた。
「はぁー・・・・・・やめだ。お前への苛立ちも全部フェルフィズの野郎にぶつけりゃいい話だしな」
完全に八つ当たりだが、フェルフィズは諸悪の権化だ。これくらいの苛立ちをプラスしても別にいいだろう。影人はそう考えた。
「そうね。私もあんたのグズっぷりに苛ついたから、それを外道な神にぶつけるとするわ」
「・・・・・・てめえ、やっぱり1回死ぬか?」
影人は再び唇の端を引き攣らせた。




