第1832話 亀裂を巡る戦い5(5)
「・・・・・・!」
写し身は両腕の砲身から破滅の光を放ち、更に光の雨を激しくした。
「ぐっ!?」
「痛熱ッ!? あー、マジで最悪だ・・・・・・!」
「っ・・・・・・修行が足りないか」
その結果、『加速』の力を使わずに回避していたメリー、イヴァン、葬武は光の雨に掠り始めた。あまりの手数の多さ。今まで避けられていたのが奇跡のようなものだった。
「ヤバかったら、あそこの光導姫みたくキベリアさんの近くに避難しろよ。あんたらを失ったら、流石にあいつには勝てないから・・・・・・」
な。しかし、ゾルダートはその言葉を紡ぐ事が出来なかった。
「・・・・・・あ?」
瞬きをした瞬間、上空にいた写し身の姿が忽然と消えたからだ。油断をしたつもりはなかった。しかし、結果としてゾルダートは敵の姿を見失った。
だが、写し身がどこに移動したのかはすぐに分かる事になる。
「あぐっ!?」
悲鳴が奔った。ゾルダートがそちらに視線を向ける。すると、そこには赤い血を飛び散らせたメリーと、メリーを実体剣で切り裂いた写し身の姿があった。
「っ!? いつの間――」
イヴァンが驚いた顔を浮かべる。写し身は左腕を光刃に変えると、今度はイヴァンに対し襲い掛かった。未だに端末装置から光の雨は降り続けている。それは回避する場所がひどく限られるという事。戦いに関して天賦の才を持っているイヴァンでも、雨を避けながら写し身の攻撃を躱す事は出来ず、イヴァンは光刃による一撃を受けてしまった。
「がっ・・・・・・」
光刃による攻撃なのでメリーのように派手に血飛沫こそ噴かなかったものの、イヴァンはその場に崩れ落ちる。そして、そんなイヴァンを追撃するように光の雨がイヴァン、メリーを穿つ。
「ちっ!」
葬武は光の雨を避けながら、写し身に向かって棍による一撃を放った。この状況で逃げずに逆に攻撃を仕掛ける胆力は凄まじい。ゾルダートも思わず「マジか」と呟いた。
「・・・・・・!」
「ぐっ・・・・・・」
しかし、結果はある意味予想通りのものだった。棍による一撃は写し身には通らず、葬武は写し身に実体剣と光刃にX字に切られた。
「・・・・・・マズいな。詰んだ」
冷静に、それはそれはひどく冷静にゾルダートはそう言葉を漏らした。戦力の半分がダウン。ゾルダートがコピーしている回復の力を使えば復帰は可能だが、今すぐには出来ない。そして、今すぐに回復の力を施さなければ3人は死ぬ。そして、3人が死ねば、ゾルダートたちの敗北は確定する。
(こりゃ1回トンズラした方がいいな。俺とキベリアさんは実質不死で、概念無力化の力で不死は無効化出来ないらしいから、俺とキベリアさんは逃げ切れる。あの黒髪の光導姫は死ぬかどうか分からないが、その時はその時だ)
メリー、イヴァン、葬武は既に助からない者――死体と見做したゾルダートは、3人をそのままにキベリアの方に向かって駆けようとした。写し身は今度は闇の穴の傘の下にいるキベリアと菲に狙いをつける。絶望が破滅に向かって急速に駆け始める。
『――大地よ、隆起し雨を防ぐ傘となれ』
どこからか声が響く。声がすると同時にコンクリートの下の地面が隆起し、光の雨から皆を守るように空を覆った。結果、光の雨が6人に届く事はなくなった。
『風よ。癒しを運びなさい』
続けて暖かな風が吹く。如何なる理屈か、その風を浴びたメリー、イヴァン、葬武は傷が綺麗さっぱり癒えていった。3人の方からは「うっ・・・・・・」、「あれ・・・・・・?」、「っ・・・・・・?」といった反応があった。
「・・・・・・?」
その現象に写し身は首を傾げると、立ち止まりその現象を引き起こしたモノにバイザーの単眼を向けた。
『・・・・・・助太刀に参りました。異なる世界の者たちよ。こちらの世界で私の力がどれだけ発揮できるかは分かりませんが・・・・・・出来得る限りの力を貸します』
そこにいたのは、ぼんやりと光った少女の姿をしたモノだった。彼女は明確に人ではない。いわゆる精霊と呼ばれるモノだった。そして、彼女――『精霊王』ヘシュナはそう言った。
――第5の亀裂、アメリカ。『精霊王』ヘシュナ、合流。




