第1830話 亀裂を巡る戦い5(3)
「なあキベリアさんよ! そろそろ仕事してくれよ! 今のところ逃げてるだけだぜあんた!」
「菲! あなたも働きなさい! 『軍師』とはただ後ろで頭を使う2つ名ではないでしょう!」
ゾルダートとメリーが後方で待機している2人にそんな言葉を送る。その言葉を受けたキベリアとメリーはそれぞれ顔を不快げに歪ませた。
「うるさいわよクズ。私に指図するな」
「うるせえよイギリス野郎。私はお前らと違って考えなしに動いてねえだけだ」
キベリアと菲はそう言いながらも能力を使用した。すなわち、キベリアは魔法を、菲は先ほどの攻撃で消えた人形たちを再び召喚した。
「3の雷、百の矢へと変化する」
「白兵2、矢を放て。黒兵1、黒兵2、敵を攻撃。頭兵、能力を解放。鬼神と化し、敵を攻撃しろ」
キベリアは100の雷の矢を写し身に向かって放ち、菲は人形にそれぞれ攻撃の指示を与えた。弓を持った人形は矢を放ち、青龍刀と偃月刀を持った人形は写し身に接近、黒と白が混じった人形は腕が4本に変化すると背中の2振りの剣を引き抜き、写し身へと突撃を仕掛けた。
「・・・・・・!」
写し身は魔法陣から端末装置を呼び出した。端末装置は写し身の意思を受け、向かって来る人形たちにレーザーを発射した。黒兵2体はレーザーを避け切れず、穿たれ無力化され再び消滅。能力を開放した頭兵はいくつかレーザーを掻い潜ったが、あと少しといったところで、レーザーに穿たれ消滅してしまった。
「ああクソッ! 言わんこっちゃねえ! だから攻撃したくなかったんだ!」
人形が再び全滅し、菲がそう吐き捨てる。写し身の力はどう見ても菲たちより上位。加えて、まだ未知だ。ゆえに菲は出来るだけ力を消費しないように観察の姿勢に回っていたのだが、メリーに言われて攻撃した結果がこれだ。
写し身は、キベリアの放った大量の雷の矢に関しては翼を使って飛び、回避の行動を取った。雷の矢にはホーミングの機能はない。ゆえに、写し身は容易に雷の矢を避ける事に成功した。
「まあ、翼があるなら飛べるわよね。はあ、面倒くさい・・・・・・」
魔法による攻撃を難なく避けられた事に、キベリアは怒りも落胆もしなかった。
「でもまあ、私の魔道も日々進歩してるのよ。一応、私これでも天才の部類だから」
キベリアは続けてそう呟くと、スッと空中にいる写し身に向かって右の人差し指を向けた。親指を立てながら向けられた人差し指は、まるで写し身を狙い撃つかのような仕草だ。
「3の雷、進化し、深化し、真化する。3の真雷、全てを穿つ雷速の剣と化す」
キベリアがそう唱えると、右の人差し指の先に魔法陣が展開した。次の瞬間、パチリと雷が弾けたかと思うと、
キベリアの右手の先から収束した雷が放たれた。その速度は比喩でも何でもなく、正に雷速。写し身の速さに届きうる速度だ。その結果、写し身はそれを避けられず胸部を雷に貫かれた。




