第183話 掴んだ答え(3)
「こいつは・・・・・・! ちっ、あいつの意志かよ!」
「「「?」」」
突如として頭を押さえ始めたスプリガンを、3人は不思議そうに見つめた。険しい顔を浮かべていた光司でさえ、一瞬その表情を変えたほどだ。
(何なんだよ、何で俺に干渉できる!? てめえはただの人間のはずだろ! くっ、ダメだ・・・・・・意識が・・・・・・)
この体の元の持ち主の意志に、まるで鎖に繋がれたかのように悪意は意識を引っ張られた。
そうして強靭な意志によって悪意の意識は、精神の深淵へと連れ戻されていった。
「・・・・・・・・・・・」
少しよろめき、影人は自分の頭を押さえていた右手を下ろし、しばらくその掌を見つめた。
「・・・・・・掴んだぜ。お前の正体」
ほとんど無意識的に影人はそう呟いていた。そしてグッと右手を拳に変え、力を込める。先ほどまで自分の体を乗っ取っていた悪意の正体を、影人は掴んだのだ。
(虎穴に入らずんば虎子を得ず・・・・・・・・じゃねえが、まずはあの悪意の正体を探らねえとな。じゃなきゃ、対処も何も出来たもんじゃない)
実は影人はわざと悪意に体を明け渡したのだ。その理由は悪意の正体を探るため。悪意が元いた場所に引きずり込まれれば、何か分かるかもしれないと。
危険な賭けではあったが、影人は見事にその賭けに勝った。悪意の正体に見当がついたのだ。そしてこの見当はおそらく間違ってはいない。
(とりあえず、さっさとこの事をソレイユに報告しねえと・・・・・)
今回は精神の深淵で悪意の正体を探ることに集中していたので、前回のフェリートの時と同様に影人にはキベリア戦から途中の記憶がない。そのため、戦いがどうなったのかは分からないが、影人は元の世界へと戻っているし、キベリアの姿も見えない。ゆえに、影人はキベリアの撃退に成功したと考えた。
影人がさっさとこの場を去ろうと踵を返すと、後ろから光司が言葉を投げかけてきた。
「ッ! だから待てと言っている! 止まれスプリガン!!」
「・・・・・・・・今はお前に構っている暇はない。じゃあな」
チラリと振り返り影人は光司にそう言った。今回の自分の仕事は色々とあったが、達成する事が出来た。であるならば、影人がこれ以上ここに止まる理由はない。
「――闇よ、壁となれ」
光司、暁理、風音と自分との間に闇の壁を作る。ここは森なので大きくし過ぎれば枝や葉を傷つけるかもしれないので、高さはそれほどではない。
「逃げるつもりかッ!?」
光司の憤ったような声を聞きながら、影人は即座にその場から走り去った。
「くそっ・・・・・・・・」
「まあまあ、そんなに落ち込むなって10位くん。確かにキベリアとスプリガンには逃げられたけど、結果的に僕たちは誰も怪我してない。最上位の闇人と戦ってこれは奇跡みたいなもんだよ」
悔しげな顔を浮かべる光司に、暁理が宥めるように言葉をかけた。実際、キベリアという闇人を逃したのは光導姫や守護者的には、決して褒められたものではないが、相手が最上位の闇人ならそれも仕方が無いと暁理は考えていた。
そしてそれは日本最強の光導姫『巫女』も同じらしく、暁理の意見に同意するように言葉を放った。
「アカツキさんの言うとおりですね。色々と残念な結果ではありますが、キベリアもあの様子だと素直に撤退したと考えられます。後はソレイユ様に、守護者『騎士』はラルバ様にこの事を報告してください」
「・・・・・・・・・ああ、分かった。この事はしっかりとラルバ様に報告するよ。・・・・・・もちろん、スプリガンが現れたこともね」
「それはもちろんです。私もスプリガンが出現したことは、ソレイユ様に報告しますから。・・・・・・・一応、彼の行動のことも」
少し複雑そうな顔でそう言葉を付け加えた風音。今回、風音は結果的にはスプリガンに助けられた。あの場面でスプリガンがあのような行動を取らなければ、風音は相当なダメージを負っていただろう。
(彼は・・・・・スプリガンはなぜ私を・・・・・・・・)
スプリガンが光導姫を何度か助けたらしいという事は風音も知っていた。その事は後輩の光導姫である陽華と明夜から聞かされていたから。
「じゃあ、今度は解散ってことで。『巫女』、僕もソレイユ様のとこまでついて行こうか? ソレイユ様に報告するんだろ?」
少し重い雰囲気になった事を察知した暁理が、手早くそう提案した。暁理もスプリガンの事は気になるが、光司とスプリガンの事について話を続けるのは、あまりいい雰囲気にはならないという事が分かっているからだ。
「ありがとうございます、光導姫アカツキ。ですが大丈夫です。報告は私1人で行きます。ソレイユ様とは少しお話もしたいですし」
「了解、ならありがたく頼ませてもらうよ。じゃあね2人とも。またどこかで」
「ええ、お疲れ様です。では光司くん、私もこれで」
アカツキの背を見送り、風音も光司に別れを告げた。一応、アカツキが離れた事を確認して本名を言ったのでアカツキの耳には届いていないだろう。
まあ、暁理は光司の事を知っているので結果的には意味のないことだが。




