第1827話 亀裂を巡る戦い4(5)
「・・・・・・?」
「ははっ、やれば出来るもんだな! コツは掴んだ! これならてめえにも届く! 空歩!」
空中を蹴り移動する技をそう名付けた冥は、連続で宙を蹴り、写し身のいる場所にまで辿り着いた。そして、右足に闇を集中させ、
「黒撃!」
叩き落とすように蹴りを放った。逆境状態の冥の一撃は神速に迫る速度だった。写し身は反射的に右腕でその一撃を受け止めたが、その威力は凄まじく、写し身は右腕を損傷しながら地面に向かって落下した。
「逃がすかよッ! おい『鉄血』! そいつを下から殴れ! 挟み撃ちだ!」
「ん、了解」
落下する写し身に追撃をかけるべく、冥は宙を蹴り写し身を追った。冥の言わんとしている事を察したエルミナは頷き、写し身の落下地点まで移動した。
「ぶっ壊れろ! 黒撃!」
「むんッ!」
冥が右の拳を、エルミナも右の拳を写し身に放とうとした。上と下からの拳による挟撃。決まれば現在の状況を打破する突破口になり得る。
だが、
「・・・・・・!」
写し身はギリギリまで引き付け、その体を滑らせた。その結果、挟む対象を失った冥とエルミナの拳は互いに激突した。
「「〜っ!?」」
ベキバキと嫌な音が冥とエルミナの拳から響く。全力の拳は互いの手だけに止まらず、2人の腕の骨にも亀裂を入れた。
「め、冥くん!?」
「同士討ち!? おいおい! ヤバいぜこいつは!」
「くっ!」
「ちぃ!」
響斬、ショット、アイティレ、刀時がその顔を曇らせる。傾きかけていた流れが今の現象で元に戻る。いや、逆流し始めた。
「・・・・・・!」
写し身は両腕の砲身を再び剣と光刃に変えると、まず最初に響斬を、次に刀時を、更にアイティレを、最後に離れた場所にいたショットを切り裂いた。
「がっ・・・・・・」
「ぐっ!?」
「っ!?」
「がはっ!?」
唯一反応できるはずだった響斬は冥に一瞬気を取られている隙に切られた。ただでさえ少なくなった黒い血が、再び大量に流れ落ちる。響斬は遂に膝をつく。刀時、アイティレ、ショットも深い傷を負い、崩れ落ちた。流れは完全に逆転した。
「・・・・・・」
写し身は先に響斬、刀時、アイティレ、ショットに止めを刺そうと、背後の魔法陣から機械の剣と端末装置を召喚した。
「――ふっ」
しかし、その時どこからか矢が飛来した。矢は正確に写し身のバイザーを貫いた。
「???」
視界機能を有していたバイザーが貫かれた事で、視界が暗転した写し身は戸惑った様子になった。
「なん・・・・・・だ?」
その光景を見た冥が訝しげな顔を浮かべる。すると、どこからか1人の男が姿を現した。
「・・・・・・アオンゼウそのものとまではいかないようだな。適当に穿ったが弱点はあるか。とはいえ、魔機神に似た存在だ。油断はしない」
現れたのは見目麗しい金髪の長髪の男だった。見た目は若々しく、一見すると人間のように見えるが、それを否定するのは長く尖った耳だった。
「互いの世界のためだ。力を貸そう。異世界の勇士たちよ」
そして、その男『真弓の賢王』レクナルは弓を下ろし、冥たちに向かってそう言った。
――第4の亀裂、アルゼンチン。『真弓の賢王』レクナル、合流。




