第1825話 亀裂を巡る戦い4(3)
「・・・・・・」
写し身は機械の剣と端末装置を無力化した響斬をジッと見つめた。そして、再び背後の魔法陣から機械の剣と端末装置、更に翼から青い煌めきを呼び出すと、自身の右腕の砲身を実体剣に、左腕の砲身を光刃に変え、神速の速度で響斬に突撃をかけた。
「っ!? はや――」
「・・・・・・!」
響斬は写し身にも届き得る攻撃力を有している。だが、写し身に対応できる素早さは有していない。響斬は写し身の速さに全く対応出来なかった。写し身は、そんな響斬に向かって無慈悲に右腕の実体剣と左腕の光刃を振るった。
その結果、響斬は実体剣と光刃で体を深く切り裂かれた。
「ぐっ!?」
光刃による攻撃では幸いな事に血はほとんど出なかった。恐らく傷口が焼かれているからだろう。対して、右腕の実体剣による攻撃では黒い血が大量に出血した。
「響斬! ちっ、そのレベルの速さかよ!」
響斬同様全く反応出来なかった冥が、地を蹴り響斬の元へと向かおうとする。
しかし、そんな冥を機械の剣と端末装置が阻んだ。更に青い煌めきの一部までもが冥に襲い掛かる。そして、それは他の者たちに対してもだった。
「邪魔だ! オモチャと遊ぶ趣味はねえんだよ!」
冥は苛ついた様子でそれらを避けた。だが、煌めきが加わった事によってか、冥ですら避けるのが精一杯だ。
「くっ、せめて凍域が機能すれば・・・・・・!」
アイティレも必死に剣や端末装置、煌めきの一部を避ける事しか出来なかった。アイティレは先ほどから自身の一定範囲に入ったものを凍らせる力、凍域を発動しようとしているが、写し身の攻撃装置は全く凍結しない。凍るというのは概念でもあり、現象でもある。
そのため、概念無力化の力を突破出来てもおかしくはないのだが、光導姫の能力によって作り出された恣意的なものという前提の方が強いため、アイティレの能力は発動しなかった。
「うーん、このままだと大ピンチな気がする。もう光臨を使おうか」
「やめておけ『鉄血』・・・・・・! 明確に勝利する自信がない時に光臨を使うのは悪手だ! 光臨は強力だが、使い方を誤れば敗北に繋がる諸刃の剣だ!」
エルミナの呟きを聞いたアイティレは必死に攻撃を躱しながらそう忠告した。光臨は1日に最大10分しか使用できない。それを超えて使用すれば、変身が解除され翌日まで変身できない。そうなれば、負けるのは必至だ。
「それは分かってるけど・・・・・・」
エルミナがモヤっとした顔を浮かべる。その間にも、響斬は写し身に襲われていた。
「がっ、ぐっ!?」
反応が追いつかない響斬は実体剣と光刃による攻撃で体を切り裂かれ続けていた。響斬は闇人。光の浄化以外で人間に戻されない限りは不死だが、それでも痛みはある。再生能力も人間よりは遥かに高いが、このまま斬撃を受け続け微塵斬りにでもされれば、再生にはかなりの時間がかかるだろう。
(こ、このままじゃヤバいな。いや、本当に・・・・・・何とか、何とかこの機械娘の速さに対応しないと・・・・・・)
痛みで鈍る意識の中、響斬はそう考えた。だが、響斬にはレイゼロールやフェリートのように『加速』の力は使えない。
(でも、使えないと・・・・・・だよな。使えないものを、使えるものにする・・・・・・拡大しないとだよな。僕がこの速度に対応できないっていう認識を。『加速』を使えないっていう認識を・・・・・・)
自分の闇の性質である『拡大』。響斬はそれを強く意識した。あれ以来まともに使っていなかったが、解釈の拡大は光と闇の決戦の時に出来ている。ならば、出来るはずだ。響斬は全身を切り刻まれながら、意識を深く集中するという離れ業を行った。




