第182話 掴んだ答え(2)
「さーて、続きといこうぜ闇人さんよ。俺はまだまだ暴れたりねえんだ」
そして現在。スプリガンの体を乗っ取った悪意は、箒に跨がって目を見開いているキベリアにそう言葉を放った。
言葉通り、悪意はまだ満足していなかった。とにかく何かをぶち壊したい。あるいは戦いたい。体がなかった悪意にはそういった衝動があった。
「ッ・・・・・誰があんたみたいな化け物と・・・・・・!」
その言葉にキベリアは嫌悪を滲ませた表情を浮かべる。今のキベリアはさっさとこの場から逃げ出したかったし、もう2度とスプリガンと戦いたいとは思っていなかった。
「あ? 何言ってんだ、てめえに選択権なんてねえんだよ」
急に不機嫌になった悪意は、とりあえずキベリアを箒から引きずり落とそうと攻撃を放とうとした。
「待てスプリガン! お前には色々と聞きたいことがある!」
だが、そこでこの場にいた光司が突如スプリガンの前に立ち塞がった。剣を構え、詰問するように声音でそう言った光司に、悪意は苛ついたように言葉を返す。
「どけよ守護者。俺は今あの闇人を蹂躙したいんだよ。てめぇは、いやてめぇと光導姫どもは後で戦ってやる」
「ッ・・・・・・・光導姫に手を出すというのなら、僕が相手になってやる!」
スプリガンの言葉を受け、光司は余計にその表情を真剣なものへと変えた。
そしてキベリアはこの状況をチャンスと捉えた。
「10の空間! 我を無作為にこの座標より跳ばせッ!」
最後の魔力を使い、キベリアは魔法を行使した。この魔法は、こことは違う場所に自身を転移させるものだ。ただし、先程の虚数空間での戦闘でほとんどの魔力を消費したため、この魔法には欠点が存在する。
それはキベリア自身、どこに転移するのか分からないという事だ。
(どこに跳ぶかは運次第・・・・・・・でも賭けるしかない!)
キベリアの周囲の空間に歪みが生じる。その事にスプリガンが気づいた時には、時は既に遅かった。キベリアは空間魔法を使い、その場から姿を消したのだ。
キベリアの姿が再び消えたことで、光司や暁理、風音も「しまった」といった表情を浮かべたがすぐに状況を鑑みて、残ったもう1人の闇の力を扱う人物――スプリガンに警戒を抱いた。いや、光司だけは先ほどからスプリガンに警戒を抱いていたが。
「ちっ、完全に逃げられた・・・・・・・・あーあ、最悪だ」
ガックリと肩を落とし、ため息を吐くスプリガン。そんなスプリガンを見た暁理と風音は、警戒を抱きつつも言葉を交わした。
「・・・・・・・・ねえ、『巫女』。なんか、スプリガンの様子ちょっとおかしくない? 僕も彼と会うのはこれで2回目だけど、雰囲気が違うというか・・・・・・」
「確かに・・・・・・・・雰囲気が荒々しい感じですね」
暁理も風音も、スプリガンと出会ったのは今日を含め2回だけ。だから詳細に何が違うかまでは分からない。
だが、今のスプリガンは言葉や態度が違っているように思えた。キベリアと共に消える前のスプリガンは、このような態度ではなかったはずだ。
「クソッタレ。しゃあねえ、順番変更だ。まずはてめぇから――」
獲物を見失った悪意が、その戦闘対象を光司に変更する。悪意は光司に攻撃しようと闇の刀を創造しようとした。
だが、
「っ・・・・・・・・!?」
急激に悪意の意識が、何かに引っ張られた。




