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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
1817/2051

第1817話 亀裂を巡る戦い2(4)

「ぐっ・・・・・・」

「ゼノさん!?」

 ゼノの体から闇ではなく黒い血が大量に噴き出す。その光景を見たファレルナが悲鳴を上げた。

「くそっ・・・・・・やっぱり、無理か・・・・・・」

 体を貫かれた痛みをひしひしと感じながら、ゼノが悔しげな顔を浮かべる。自分の力は写し身にも何1つ通らない。戦力外だ。

「だけど・・・・・・それでも・・・・・・」

 ゼノは気力を振り絞り、体を貫く剣を次々と抜いた。その度に、大量の黒い血が滴り落ちる。闇人にとって血は力の源。流せば弱体化する。そして、ゼノは既にかなりの量の血を流していた。

「まだ・・・・諦めないよ・・・・ここで足掻かなかったら・・・・レールや彼に・・・・合わせる顔が・・・・ない・・・・からね・・・・・・!」

 激痛に苛まれながらもゼノは笑みを浮かべた。レイゼロールや影人はどんな状況でも絶望し切った事はしなかった。ならば、自分も2人に倣うべきだ。

(絶望するにはまだ早い。何か、何かあるはずだ。俺に出来る事が。こいつを倒す方法が)

 ゼノはその琥珀色の瞳を動かし、何かヒントがないか探した。ゼノの瞳が、地面に落ちている機械の剣に向けられる。

「っ、これは・・・・・・」

 何かに気づいたゼノが軽く目を見開く。しかし、その瞬間に落ちていた剣たちが再び駆動し、再度ゼノを貫いた。

「っ・・・・・・」

「っ、ゼノさん!」

 その攻撃に今度こそゼノが膝をつく。最強の闇人が崩れ落ちる。その光景を見たクラウンが思わず声を上げる。

「・・・・・・」

 写し身は背中の魔法陣から複数の端末装置を呼び出した。その端末装置がハサンを抱えるクラウンにレーザーを放つ。レーザーの速度にクラウンは反応する事が出来ず、レーザーに体を貫かれた。

「〜っ!?」

「ピエロ!?」

 クラウンがその場に倒れ、クラウンが抱えていたハサンも地面に投げ出される。その光景に真夏が意識を一瞬そちらに向けた。その隙を突いて、写し身は一瞬で真夏に急接近し、左腕の砲身を真夏に向けそこから破滅の光を放った。

「やばっ――」

 それは一種の奇跡というべきか。光が放たれると同時に、真夏は超反応し体を捻った。その結果、破滅の光は真夏の腹部の半分を穿っただけに過ぎなかった。

「あ・・・・・・」

 だが、それでも腹部の半分に大きな穴が空いた事に変わりはない。真夏はフラッと意識が遠のくを感じ、どさりと地面に倒れた。

「そんな・・・・・・!」

「おい、嘘だろ・・・・・・」

 ファレルナが思わず口を押さえ、ノエも信じられないといった顔になる。戦えるのはもう、ファレルナとノエの2人だけになってしまった。

「クソッ!」

 ノエは悪態をつくと、次々と写し身に向かって矢を速射した。矢の雨が写し身を襲う。

「・・・・・・」

 しかし、写し身は神速の速度で動き、右手の剣で矢を切り払いながら、一瞬でノエとファレルナの元に移動してきた。写し身は左手の砲身を光刃に変化させると、それで以てノエを右袈裟に斬った。

「ぐっ!?」

 体こそ奇跡的に両断されなかったが、深い切り傷を負ったノエの体が大きくぐらつく。写し身はそんなノエを蹴り飛ばし、最後にファレルナにその青い単眼の照準を合わせた。

「っ、光よ!」

 ファレルナが自身の背後から漏れ出る光を強め、それを先ほどのように手の形に変える。「力」を浄化する光の腕が写し身を包もうとする。しかし、それよりも早く写し身はファレルナの腹部に右腕の剣を突き刺した。

「がふっ・・・・・・!?」

「・・・・・・」

 ファレルナの腹部に灼熱の痛みが奔る。貫いた剣の先からはポタポタと『聖女』の血が滴る。写し身は無感情に剣を引き抜く。流れた赤い血は地面に朱色の花を咲かせた。

「まだ・・・・です・・・・! まだ・・・・終わっては・・・・!」

 ファレルナは急速に掠れゆく意識の中、ガシッと写し身の体にしがみついた。ここで自分が倒れれば、亀裂を安定させる事ができない。そして、それは世界の破滅を意味する。絶対にファレルナたちは負ける事が出来ないのだ。ファレルナは何とか意識を集中させると、再度光の腕を構築しようとした。

「・・・・・・」

 だが、写し身は無情だった。写し身は自分にしがみついているファレルナに止めを刺そうと、右腕の剣を砲身に変え、それをファレルナの側頭部にあてがった。

 破滅の光が瞬き、ファレルナの腹部を消し飛ばそうとする。チェックメイトか。そう思われた時、


「――ふん。全滅間近ではないか。情けない奴らだ」


 どこからか、そんな声が響いた。その声音には確かな傲岸さがあった。

「え・・・・・・?」

 ファレルナが声を漏らすと同時に、何者かが写し身の髪を掴み、血と影を纏う蹴りを放った。その蹴りを受けた写し身は凄まじい音と共に、遥か後方に蹴り飛ばされた。

「全く、なぜこの俺様が助太刀に入らねばならんのだ。しかも、相手は魔機神の写し身・・・・・・ふん。気に食わん」

 写し身を蹴り飛ばしたのは、艶のあるダークレッドの髪が特徴の年若い男だった。古風なマントに身を包んだその男は、髪と同じ色の目をファレルナに向けた。

「泣いて喜べ。この俺様が貴様ら下等を助けてやろう」

 そして、その男――『真祖』シスはどこまでも傲慢にそう言った。


 ――第2の亀裂、イギリス。『真祖』シス、合流。

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