第1816話 亀裂を巡る戦い2(3)
「ではワタクシも。それ!」
「よっと」
クラウンもどこからか小さな闇色のボールを複数出現させると、それらを投げた。ボールには触れた瞬間に爆発する仕掛けが施されていた。ノエも再び矢を放つ。
「・・・・・・!」
呪符、ボール、矢。自身に向かってくる、3種類の飛び道具を認識した写し身は、右腕の剣で全てを切り裂いた。概念無力化の力を宿す剣で斬られたため、呪符は呪いの力を発動しなかった。
ただし、クラウンのボールは爆発した。爆発は概念ではなく事象だ。ゆえに、写し身は爆発に巻き込まれた。
「畳み掛ける・・・・・・!」
双剣を携えたハサンが一気に写し身との距離を詰める。そして、ハサンは体を回転させ、遠心力を利用してその腕を大きく振ると、黒煙越しに写し身の首めがけて、双剣を振るった。
ハサンの双剣は黒煙を切り裂き、写し身の首を捉えた。そのまま双剣が写し身の首を刎ねる。そう思われた。
だが、双剣は写し身の首を刎ねる事は出来なかった。ガキンという音が響き双剣は阻まれた。
「っ!? 何て硬さだ・・・・・・!」
守護者形態のハサンの全力の一撃は、鉄くらいならば切り裂ける。しかし、写し身の体は全く刃が通らない。写し身の体はとてつもなく硬い物質で出来ている。ハサンはそう思った。
「・・・・・・」
「がっ!?」
写し身はハサンの認識速度を超える速さでハサンを蹴り飛ばした。その蹴りは、間違いなく普通の人間を、余裕をもって蹴り殺せるだけの威力を持っていた。ハサンは自身の骨が砕け散る音を聞き、飛ばされた。
「・・・・・・」
写し身は背後の魔法陣から大量の機械の剣を呼び出した。そして、その剣たちにハサンを追い討ちさせた。
「『傭兵』!?」
「『傭兵』さん!?」
「ああ、マズいなこれは・・・・・・」
真夏、ファレルナが驚愕と心配が入り混じった声を上げ、ノエが顔を曇らせる。このままでは、ハサンは大量の剣に貫かれる事は確実だ。
「やらせないよ」
ゼノが自身の闇を全て解放する。途端、ゼノの体から高密度の『破壊』の闇が噴き出し、髪が半ば黒く染まる。それは全てを喰らい、全てを破壊する闇だった。そして、ゼノは自分とハサンとの間の空間を壊し、ハサンを無理やり自分の方に引き寄せた。
「クラウン、お願い」
「はいー」
自分が抱き止めてしまえばハサンが粉々に壊れてしまうため、ゼノがクラウンにそう言った。ゼノの言わんとする事を察したクラウンは、ハサンを受け止めた。
しかし、ハサンを追い討ちしようとしていた剣はまだハサンと、ハサンを受け止めたクラウンを狙って真っ直ぐに飛んで来ている。ゼノはクラウンにこう指示を出す。
「クラウン、逃げて。あれは俺が何とかする。あと、ファレルナ。悪いけど、少し光を抑えてほしい」
「了解ですー。お気をつけて、ゼノさん」
「は、はい」
クラウンがハサンを抱えたまま、身軽に後方に飛ぶ。ファレルナも自身の背後から漏れ出る光を出来るだけ抑える。ゼノは飛んだクラウンを守るかのように、剣の前に身を出した。
「さて、もう1回試させてもらうよ。俺の闇が届くのか。今度は全力で」
ゼノは体から噴き出す闇の出力を高め、その闇を全て右腕に集約させた。ゼノの右腕は超高密度の『破壊』の闇に覆われた黒腕と化した。
「破壊の闇」
ゼノが黒腕と化した右腕を振るう。放たれるのは全てを喰らい全てを壊す闇の奔流。機械の剣たちはその闇に呑み込まれた。
しかし、その剣たちはただの剣ではなく、概念無力化の力を搭載した剣。機械の剣たちは全てを喰らい全てを壊す闇の奔流に抗う。しばしの間、両者は拮抗した。
だが――
剣たちは闇を切り裂き、ゼノの体に次々と突き刺さった。




