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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
1813/2051

第1813話 亀裂を巡る戦い1(4)

「・・・・・・辛いけど、まだだよ。冥天めいてん、第1の福音、空の声」

 レゼルニウスがそっと左手でレイゼロールの体に触れる。すると、どこからか美しい声が――まるで天使の歌声のような――が聞こえて来た。そして1秒もしない内にバンッと凄まじい音が爆ぜた。それは、レゼルニウスの左手の先から発せられたものだった。

「〜っ!?」

 それを直接受けたレイゼロールは、全身に凄まじい衝撃を浴びせられ吹き飛んだ。

「がっ、げほっ!」

 地面に横たわったレイゼロールが激しく吐血した。今の音による攻撃でレイゼロールの体内はズタボロになっていた。

「効くだろう。空の声は。君を傷付ける事は酷く心が痛む。気を抜いてしまえば、今にも涙が溢れて懺悔しそうになるよ」

 レゼルニウスは傷つくレイゼロールを憐れむように見つめた。レゼルニウスの言葉は少しだけ、ほんの少しだけ震えていた。その震えが、レゼルニウスの言葉が真実だと知らせる。

「だけど、これが戦いだ。僕が君に再会するための代償。レール、僕は契約上、手を抜く事は出来ない。だが、この世界と、隣接する世界のためにも、君は僕に勝たなければならない。・・・・・・だから勝ってくれ。そして見せてくれ。きみぼくを超える様を」

「・・・・・・言われなくとも、そうしてみせる」

 闇の回復の力で傷を全快させたレイゼロールがゆらりと立ち上がる。

「少しばかり痛めつけたからといって調子に乗ってもらっては困る。確かに、冥界の力に『終焉』は無意味のようだ。だが、それだけだ。我はあなたに勝つ。そして、あなたの言うように、あなたを超えてみせる」

 レイゼロールは漆黒の瞳の中に不屈の意志を煌めかせた。瞳に宿るその意志にレゼルニウスはある者の姿を重ねた。それは頗る前髪の長い少年がよく見せるものだった。

「・・・・・・よく言った。でも、口だけならどうとでも言える。それを実行するのは並大抵じゃないよ。レール、君はやり切れるかな。いつも、どんなに厳しい事でもやりきって来た彼のように」

「ふん、あいつに出来て我に出来ない理由は何もないな」

「そうかい。なら・・・・・・第3の冥獄、雷禍らいかの針」

 レゼルニウスが冥界の地の国、その第3層の事象を呼び起こす。言葉が放たれると、レゼルニウスの周囲の空間に、バリバリという音を立てて雷の針が複数出現した。それらが襲ってくるとレイゼロールが考えた時には、それらの針はレイゼロールの全身に突き刺さっていた。

「っ!?」

「その針を認識してしまったら終わりだよ。認識したと同時に、その針は対象者を貫くからね」

 レイゼロールが文字通り、身を焦がすような痛みを感じている中、レゼルニウスが説明を加える。レイゼロールは1度幻影化を使用し、雷の針を体から抜いた。

「冥天、第3の福音、裁きの槍」

 冥界からレイゼロールをずっと見ていたレゼルニウスは、幻影化に驚く事もなく、冥界の天の国、その第3の事象を召喚した。レゼルニウスの上の空間に1本の壮麗な槍が出現する。

「シッ・・・・・・!」

 実体化したレイゼロールは再び回復の力を使って傷を癒すと、両手に『終焉』の闇を固めた剣を創造した。2刀流となったレイゼロールは、神速の速度でレゼルニウスへと接近する。

 しかし、その瞬間にレゼルニウスの上の空間に浮いていた槍が1人でに反応し、レイゼロールに攻撃を仕掛けてきた。

「ふん・・・・・・」

 レイゼロールはその槍を最小限の動きで回避する。そして、そのままレゼルニウスへ接近をかけようとする。

 だが、槍は途中で急にUターンをすると、背後からレイゼロールを貫こうとしてきた。

「っ」

 槍に気づいたレイゼロールは左手の剣で槍を払おうとした。しかし、槍に触れた瞬間、闇で固められた剣は削られてしまった。

 まさか、剣で対処できないと思っていなかったレイゼロールは、その槍をギリギリのところで何とか回避すると、短距離間の転移で1度レゼルニウスから距離を取った。

「この槍は破邪の槍。僕を傷つけようとするものを自動で攻撃する。ついでに言っておくと、この槍には光導姫たちの言葉でいう浄化の力が込められているよ」

「・・・・・・つまり、闇の力に対する特効を有しているわけか」

 厄介なものを。レイゼロールは心の内でそう呟いた。

(死の世界である冥界の全てを操る力・・・・・・流石は兄さんというべきか。正直、凄まじく強い)

 『終焉』も効かない。それももちろん関係している。だが、それを差し引いてもレゼルニウスは尋常ではない強者。文字通り、神の如きであった。

「・・・・・・『終焉』を扱う我だからこそ、まだこれだけ戦えているというわけか」

「そうだね。普通なら、現世に干渉できるようになった僕と戦える相手は限られている。君は数少ないその相手の内の1人だよ」

 睨みつけてくるレイゼロールにレゼルニウスは軽く目を伏せる。

「・・・・・・レール、長年『終焉』を失っていた君にはまだよく分かっていないかもしれないけど、その力は本当に特別な力だ。『終焉』は全てのモノに平等に終わりを与える事が出来る。例え、真界の神だろうと、『空』だろうとね」

「っ・・・・・・? 確かに、『終焉』は不死をも殺せる力だが・・・・・・それを言うなら、兄さんの冥界の力もそうだろう。そして、フェルフィズの大鎌も」

「実質的な効力は同じだけど、厳密には違うよ。まず、冥界の力は死を与えられる限界がある。それは僕以上に位階が高い神・・・・・・つまり、真界の神には通用しないという点だ。そして、フェルフィズの大鎌は全てを殺す力。終わりを与える力ではなく、殺す力だ」

 レゼルニウスが首を横に振る。元『終焉』保持者としてレゼルニウスはこう言葉を続けた。

「さっきも言ったみたいに、対して『終焉』は位階に縛られずに全てに終わりを与えられる力だ。殺す力じゃない。これが冥界の力とフェルフィズの大鎌の力と、『終焉』の決定的な違いだ。・・・・・・この意味が分かるかな?」

「・・・・・・さあな。ある意味平等で恐ろしい力という事以外分からない」

 素直にレイゼロールがそう返答する。その答えを聞いたレゼルニウスは少し残念そうな顔になった。

「恐ろしい力か。そうか・・・・・・どうやら、まだしっかりと力の意義を影人くんから聞いていないようだね。なら、この戦いの中でその意義を考えるんだレール。そして、答えを出せ。そうしなければ・・・・・・君は僕には決して勝てないだろう」

「っ・・・・・・」

 レゼルニウスが真剣な顔でそう宣言する。レゼルニウスの言葉がどうしようもない真実だと理解したレイゼロールは、その顔に緊張の色を奔らせた。


 ――果たして、レイゼロールレゼルニウスに答えを示せるのか。そして、示した先にある結末とは――

 ――悲しき兄妹の本当の戦いは、まさにこれから始まろうとしていた。

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